宇宙ステーションでは地上と同じようにインターネットを使えるのか、通信速度はどのくらいなのか、動画視聴やオンラインゲームまで可能なのかと気になっている人は多いでしょう。
国際宇宙ステーションで使われる通信については600Mbpsという数字がよく紹介されますが、これは宇宙飛行士一人が自由に使えるインターネットの実測速度ではなく、宇宙ステーションと地上を結ぶ通信システムが扱える回線能力を示す代表値です。
地上の家庭用インターネットとは異なり、宇宙ステーションの回線では運用データ、宇宙飛行士の音声、ライブ映像、実験結果、機器の状態を示す情報などが同じ通信基盤を通るため、速度の数字だけを比べても実際の使い心地は判断できません。
ここでは、宇宙ステーションのインターネット速度として知られる600Mbpsの意味、地上までデータが届く仕組み、通信の遅延、利用できるサービス、家庭回線との違い、レーザー通信による高速化まで整理し、公開されている数字を正しく読み取るための視点を紹介します。
宇宙ステーションのインターネット速度は600Mbpsが目安

国際宇宙ステーションの通信速度を一つの数字で表す場合、NASAが2019年に公表した600Mbpsが代表的な目安になります。
ただし、この数字は家庭用回線の広告にある最大通信速度と同じように、そのまま一台のパソコンで利用できる速度を保証するものではありません。
回線の用途、通信方向、運用上の優先順位、地上設備の処理、接続先の状態を分けて考えると、600Mbpsという数字と宇宙飛行士が感じる快適さが必ずしも一致しない理由が見えてきます。
600Mbpsは回線全体の代表値
宇宙ステーションのインターネット速度として紹介される600Mbpsは、国際宇宙ステーションと地上の通信ネットワークを結ぶ高レート通信能力を示す代表的な数字です。
NASAの通信速度向上に関する公開資料では、2019年に通信能力が300Mbpsから600Mbpsへ引き上げられ、より多くの科学データや映像を同時に扱えるようになったと説明されています。
| 公開されている数字 | 意味 | 読み方 |
|---|---|---|
| 600Mbps | ISS通信の代表的な回線能力 | 個人の実測値ではない |
| 75MB毎秒 | 600Mbpsを8で割った理論値 | 通信損失を含まない |
| 1秒未満 | NASAが示す通信遅延の目安 | Web表示時間とは別 |
| 2019年 | 600Mbpsへの増強時期 | 現在も代表値として掲載 |
2026年6月時点でもNASAの通信技術に関する公開情報では、国際宇宙ステーションへのネットワーク支援を300Mbpsから600Mbpsへ増強した実績が主要な節目として掲載されています。
600Mbpsを単純にバイトへ換算すると毎秒約75MBになりますが、実際には通信制御用の情報、誤り訂正、暗号化、再送、複数用途による共有があるため、利用者が受け取れるデータ量は理論換算値より少なくなります。
したがって、600Mbpsという数字は宇宙飛行士が速度測定サイトを開いたときに必ず表示される値ではなく、宇宙ステーション全体を支える通信インフラの規模を理解するための数字として扱うのが適切です。
宇宙飛行士の専用回線ではない
宇宙ステーションの600Mbpsは、宇宙飛行士が私的なインターネット利用のために専有できる回線ではなく、軌道上施設の運用を支える多目的な通信資源です。
回線には宇宙飛行士の音声や映像だけでなく、生命維持装置の状態、温度や圧力などのテレメトリ、実験装置のデータ、地上から送られる指示、船外カメラの映像などが流れます。
特に安全に関係する情報や運用上重要な通信は、一般的なWeb閲覧や娯楽目的のデータより優先されるため、空いている帯域を宇宙飛行士が自由に使い切れる仕組みではありません。
地上の会社で一つのインターネット回線を多数の従業員、監視カメラ、クラウドサービス、業務サーバーが共有している状態に近いものの、宇宙ステーションでは通信障害が人命やミッションへ影響するため、管理の厳しさが大きく異なります。
宇宙飛行士がメールやWebサイトを利用している場面だけを見れば普通のインターネットに見えますが、その背後では多数の運用系通信が動いているため、個人向けWi-Fiの速度と同じ基準では評価できません。
実効速度は公開値だけでは決まらない
宇宙飛行士が実際に利用できるインターネットの速度は、600Mbpsという回線能力だけでなく、その時点で割り当てられた帯域や通信経路の混雑によって変わります。
大容量の実験データや高精細映像を地上へ送信している時間帯には、生活支援用の通信へ割り当てられる余裕が小さくなる可能性があり、同じ端末でも利用する時刻や作業内容によって体感が変わります。
さらに、宇宙ステーションから地上局へ届いたデータは地上のネットワークやNASAの設備を通過して最終的な接続先へ向かうため、相手側のサーバーが混雑していれば宇宙区間が高速でも表示は遅くなります。
地上の家庭でも最大1Gbpsの光回線で常に1Gbpsが出るわけではありませんが、宇宙ステーションでは衛星中継、運用上の優先制御、接続可能時間などの要素が加わるため、最大値と実効値の差をより慎重に見る必要があります。
宇宙飛行士が利用する端末ごとの平均速度や速度測定結果は一般向けに継続公開されていないため、公開情報だけから個人利用時のMbpsを断定することはできません。
通信方向で使える帯域が異なる
家庭用インターネットでは利用者が受け取る通信を下り、利用者から送る通信を上りと呼びますが、宇宙通信では地上から宇宙機へ向かうフォワード回線と、宇宙機から地上へ戻るリターン回線として区別されることがあります。
国際宇宙ステーションでは実験結果、観測画像、機器の状態、ライブ映像など、軌道上から地上へ送るデータ量が大きいため、600Mbpsという数字も主に大量のデータを地上へ返す能力として紹介されます。
一方で、地上から宇宙ステーションへ送る指令やファイルは安全性と確実性が重視され、宇宙ステーションから地上への大容量データ送信と常に同じ速度になるとは限りません。
宇宙飛行士がWebページを見る場合には地上から宇宙側へコンテンツを届ける通信が必要であり、写真や動画を地上へ送る場合には反対方向の通信が必要になるため、同じインターネット利用でも影響を受ける回線が異なります。
そのため、600Mbpsを家庭回線の下り最大600Mbpsと完全に同じ意味で受け取るのではなく、宇宙ステーションの通信システム全体が持つ高レートなデータ伝送能力として理解する必要があります。
遅延は通信速度と別に考える
宇宙ステーションのインターネットが快適かどうかを考える際には、1秒間に送れるデータ量を示す通信速度だけでなく、操作してから応答が届くまでの遅延も確認する必要があります。
国際宇宙ステーションの信号は地上へ直接届くだけではなく、高い軌道に配置されたデータ中継衛星を経由して地上局へ送られるため、地上の光回線より長い距離を移動します。
NASAは国際宇宙ステーションと地上の通信処理が1秒未満の遅延で行われると説明していますが、この数字には接続先Webサーバーの応答時間やページ内の画像を読み込む時間まで含まれるとは限りません。
大きなファイルを一方向へ送る用途では十分な帯域があれば多少の遅延は目立ちにくい一方、オンラインゲーム、遠隔操作、細かいやり取りを何度も繰り返すWebサービスでは遅延が操作感へ強く影響します。
回線速度が600Mbpsあってもクリックするたびに通信の往復が必要なサービスでは地上より反応が鈍く感じられる可能性があるため、帯域が広いことと応答が速いことは分けて評価しなければなりません。
通信速度を変動させる要因が多い
宇宙ステーションの通信品質は、衛星との位置関係、アンテナの向き、運用スケジュール、実験データの量、地上設備の状態など複数の条件によって変化します。
地上の家庭回線であれば利用者数やWi-Fi環境が主な変動要因になりますが、宇宙では高速で地球を周回する施設と中継衛星を正確に追尾しながら通信を維持する必要があります。
- 中継衛星との可視条件
- アンテナ追尾の状態
- 科学データの送信量
- ミッション通信の優先順位
- 地上局や回線の保守作業
- 端末や接続先の処理能力
JAXAの国際宇宙ステーションに関する案内では、クルー用インターネットは静止データ中継衛星を介しており、地上とのリンクが切れる時間帯には利用できないと説明されています。
現在の中継衛星システムは地上局だけで追跡する方式より広い通信時間を確保できますが、通信設備の切り替えや保守を含め、地上の固定回線のように常に同じ条件が続くわけではありません。
一時的に通信できない場合に備えて実験データを軌道上へ保存し、回線が利用可能になってから送信する仕組みも重要であり、瞬間的な速度だけでなくデータを確実に届ける設計が優先されます。
家庭の光回線とは目的が違う
国際宇宙ステーションの600Mbpsと家庭の光回線を数字だけで比較すると似た性能に見えますが、二つの回線は利用目的と設計思想が大きく異なります。
家庭回線は動画視聴、オンライン会議、買い物、ゲームなど利用者の快適性を中心に設計される一方、宇宙ステーションの通信は安全な運用と科学データの確実な回収を最優先にしています。
宇宙ステーションでは故障時にすぐ現地の通信会社が修理へ行くことができないため、冗長化、監視、誤り訂正、バックアップ手段など、単純な速度比較には表れない信頼性が求められます。
また、地上の光回線は近隣設備から海底ケーブルやデータセンターへ接続されますが、宇宙ステーションでは移動する施設から中継衛星、地上アンテナ、NASAのネットワークを順番に通る複雑な経路が必要です。
家庭回線より速いか遅いかという二択で考えるのではなく、大容量の研究データを扱える広い帯域を持ちながら、遅延や運用制限もある特殊な業務用ネットワークと捉えると実態に近づきます。
宇宙ステーションの通信はどう地球へ届くのか

国際宇宙ステーションは約90分で地球を一周するため、一つの地上アンテナだけで継続的に追跡することはできません。
そこでNASAは、地球から高い軌道に配置したデータ中継衛星を宇宙の通信基地局として利用し、宇宙ステーションから届いた電波を地上のアンテナへ転送しています。
宇宙区間だけでなく、地上局、専用回線、データ処理設備、管制センターまで含めた一連の仕組みによって、宇宙飛行士の会話や映像、科学データ、インターネット通信が利用可能になります。
TDRSを経由して地上へ届く
国際宇宙ステーションの主要な通信では、NASAのTDRSと呼ばれる追跡・データ中継衛星が、軌道上の施設と地上をつなぐ中継点として使われます。
宇宙ステーションから送信された無線信号はTDRSへ届き、そこから米国ニューメキシコ州などにある地上アンテナへ転送された後、地上回線を通って管制施設や研究機関へ送られます。
| 通信段階 | 主な役割 | 速度への影響 |
|---|---|---|
| 宇宙ステーション内 | 端末と機器を接続 | 機器性能や割り当て |
| ISSからTDRS | 軌道間の無線通信 | 可視条件や追尾 |
| TDRSから地上局 | 信号を地上へ中継 | 設備状況や帯域 |
| 地上ネットワーク | 管制拠点へ転送 | ルーターや専用回線 |
| 一般インターネット | 外部サービスへ接続 | 相手サーバーの混雑 |
中継衛星を使わず地上アンテナだけで通信する場合、宇宙ステーションがアンテナから見える短い時間にしか接続できませんが、TDRSによって地球周回中の通信可能時間を大幅に広げられます。
携帯電話が近くの基地局を介して通信する仕組みに例えられることがありますが、宇宙ステーションでは基地局に相当する中継衛星まで数万キロメートル規模の経路が加わります。
この長い経路が遅延を生む一方、中継衛星を利用することで管制センターとの音声や映像をほぼ継続的に維持できるため、速度だけでなく通信可能時間を増やす効果も重要です。
周波数帯は用途ごとに使い分ける
宇宙ステーションと地上の通信では一種類の電波だけを使うのではなく、必要なデータ量や信頼性に応じてSバンドやKuバンドなどの周波数帯が使い分けられます。
Sバンドは音声、指令、機器の状態を示す情報などに利用され、Kuバンドは映像や高レートの科学データを含む、より大容量の通信を扱う役割を担ってきました。
JAXAは宇宙飛行士が利用するクルー支援LANについてKuバンド通信を用いて静止データ中継衛星を経由すると説明しており、一般的なWeb利用も宇宙ステーション独自の通信設備を通って地上へ接続されます。
周波数が高ければ広い帯域を確保しやすくなりますが、アンテナを正確に向ける必要があり、設備の設計や信号処理も複雑になるため、すべての通信を高速な方式へ置き換えればよいわけではありません。
重要な指令や音声には安定性を重視した経路を残し、大容量データには高レートな経路を使う役割分担によって、速度と安全性の両方を確保しています。
地上設備も通信速度を支えている
宇宙ステーションから地上アンテナへ電波が届いても、その後のデータ処理設備や地上回線が遅ければ、600Mbpsの通信能力を十分に活用できません。
2019年の速度向上では宇宙ステーション側のモデムだけでなく、地上局のルーター、インターフェース、データ処理装置、各施設を結ぶ回線などもまとめて更新されました。
- 宇宙ステーション側のモデム
- TDRSの中継システム
- 地上の大型アンテナ
- 信号を処理する設備
- NASA施設間の専用回線
- 管制用コンピューター
このように宇宙通信の速度は軌道上の無線機だけで決まるのではなく、通信経路の中で最も処理能力が低い部分が全体のボトルネックになります。
家庭のWi-Fiルーターだけを最新機種に交換しても契約回線や接続先が遅ければ速度が上がらないのと同じように、宇宙通信でも端から端まで設備を更新する必要があります。
さらに、宇宙ステーションを支えるネットワークは他の宇宙機にも通信サービスを提供するため、設備の能力だけでなく、各ミッションへ通信時間と帯域を適切に割り当てる運用も重要です。
宇宙飛行士はインターネットで何ができるのか

国際宇宙ステーションの宇宙飛行士は、業務上のルールや通信状況の範囲内で、メール、Web閲覧、SNSへの投稿、家族との連絡などにインターネットを利用できます。
ただし、地上の自宅にあるWi-Fiへ自由に接続する感覚ではなく、安全性が管理された端末とネットワークを利用し、ミッションに必要な通信を妨げないことが前提です。
利用できる機能が多いことと、あらゆるサービスを地上と同じ快適さで使えることは別であり、遅延や回線共有の影響が大きい用途もあります。
Web閲覧やSNSへの投稿ができる
国際宇宙ステーションでは2010年1月22日にクルー支援LANが利用可能になり、宇宙飛行士が地上のWebサイトへアクセスできる環境が整いました。
それ以前にもメール、IP電話、ビデオ会議、NASA内部サイトの閲覧などは可能でしたが、クルー支援LANの導入によって利用できるインターネットサービスの幅が広がりました。
- 業務メールの送受信
- Webサイトの閲覧
- SNSへの文章投稿
- 宇宙から撮影した写真の共有
- 家族や関係者との連絡
- ニュースや資料の確認
宇宙飛行士が軌道上から写真やメッセージを発信できることは、一般の人が宇宙での生活や地球観測を身近に感じるきっかけにもなっています。
一方で、端末のセキュリティ、接続先の安全性、業務との関連性などに関する規定があり、地上の個人端末と同じように未知のアプリやファイルを自由に導入できるわけではありません。
宇宙ステーションのシステムを守ることが最優先であるため、Web閲覧が可能でも、通信内容や利用方法には組織のネットワークと同様の管理が行われます。
音声通話やビデオ会議にも使われる
国際宇宙ステーションの通信回線は、管制センターとの音声連絡、研究者との会話、教育イベント、家族とのビデオ通話などにも利用されています。
音声は必要なデータ量が比較的小さいため多少の帯域変動があっても維持しやすい一方、高精細な映像はデータ量が大きく、回線状況に応じた品質調整が必要です。
| 利用内容 | 必要な通信特性 | 宇宙での注意点 |
|---|---|---|
| 音声通話 | 低い遅延と安定性 | 話す間合いに影響 |
| ビデオ通話 | 連続した帯域 | 画質が変動しやすい |
| 教育イベント | 音声と映像の同期 | 事前の通信調整が必要 |
| 実験支援 | 映像と指示の確実性 | 業務通信として優先 |
| 映像中継 | 大容量の送信能力 | 他データとの調整 |
通信距離が長いため地上同士の会話よりわずかな間が生じることはありますが、宇宙飛行士と管制担当者が通常の会話を続けられる範囲に抑えられています。
研究者が実験映像を見ながら宇宙飛行士へ作業方法を伝える場合には、単に画質が高いだけでなく、映像が途切れず、指示の内容を確実に確認できることが重要です。
600Mbpsへの増強は娯楽目的の動画を快適にすることだけが目的ではなく、複数の実験映像や高精細な科学データを地上へ届ける能力を高める意味があります。
動画やオンラインゲームには制約がある
回線能力だけを見れば動画を再生できる帯域がありますが、宇宙ステーションで一般的な動画配信サービスを長時間自由に視聴できるとは限りません。
映像データは継続的に帯域を消費するため、ミッション通信や科学データを優先する必要がある時間帯には、娯楽利用が制限されたり画質を下げたりする可能性があります。
オンラインゲームでは映像のダウンロード量よりも操作と応答を繰り返す際の遅延が問題になりやすく、競技性の高いゲームや瞬間的な判断が必要なゲームには適した環境とはいえません。
一人で遊ぶゲームや通信頻度の低いサービスであれば技術的に動作する可能性はありますが、宇宙ステーションの端末へゲームを自由に導入できるかどうかはセキュリティや業務上の規定とは別の問題です。
宇宙飛行士にとって余暇や地上との交流は長期滞在中の心理的な支えになりますが、通信設備は娯楽専用ではないため、地上の家庭向けインターネットと同じ利用方法を期待しないことが大切です。
速度の数字を読み違えないための基準

宇宙ステーションの通信速度に関する情報では、MbpsとMB毎秒、帯域と遅延、回線全体の能力と端末ごとの実効速度が混同されやすくなっています。
単位や測定対象を確認せずに数字だけを並べると、宇宙ステーションは家庭の光回線より速いという結論にも、実際には非常に遅いという反対の結論にも見えてしまいます。
どの方向の通信を、どの区間で、誰が、何のために利用した速度なのかを確認することが、情報を正しく比較するための出発点です。
MbpsとMB毎秒を区別する
通信速度で使われるMbpsは1秒間に送れるビット数を表し、ファイル容量で使われるMBはバイト数を表すため、同じ数字として扱うことはできません。
1バイトは8ビットなので、600Mbpsを理論上のファイル転送量へ換算すると毎秒75MBになりますが、実際には通信制御や誤り訂正に使うデータが含まれるため75MBを丸ごと転送できるわけではありません。
| データ量 | 600Mbpsでの理論時間 | 実際の見方 |
|---|---|---|
| 100MB | 約1.3秒 | 通信損失を含まない |
| 1GB | 約13秒 | 専有できた場合 |
| 10GB | 約2分13秒 | 共有や制御を考慮しない |
| 100GB | 約22分 | 連続利用できた場合 |
この計算は回線能力を理解するためには役立ちますが、宇宙飛行士が100GBのファイルを自由に送信した場合の所要時間を保証するものではありません。
科学データは優先順位や地上側の受け入れ準備に合わせて分割送信されることがあり、通信が一時的に中断した場合には軌道上の記録装置から改めて送る処理も必要です。
速度を比較するときはMbpsとMB毎秒の違いに加え、その数字が理論最大値なのか、割り当て帯域なのか、実測されたファイル転送速度なのかも確認する必要があります。
帯域と遅延と安定性を見る
インターネットの体感品質は通信速度だけで決まらず、遅延、遅延の揺れ、パケット損失、接続の継続性などが組み合わさって決まります。
宇宙ステーションでは大容量データを送れる広い帯域があっても、中継衛星を経由する距離や通信設備の切り替えによって、地上の光回線とは異なる反応や変動が生じます。
- 帯域は一度に運べる量
- 遅延は応答までの時間
- 揺らぎは遅延の変動幅
- 損失は届かなかった割合
- 可用性は接続できる時間
- 優先制御は用途別の割り当て
動画配信や大容量ファイル送信では帯域の広さが重要ですが、音声通話や遠隔操作では遅延と揺らぎが大きいと、データ量が少なくても利用しにくくなります。
通信の途中で一部のデータが失われれば再送が必要になり、表面上の回線速度が高くても実際の転送完了までに時間がかかるため、誤り訂正や再送制御も実効速度へ影響します。
宇宙通信を評価するときは最大Mbpsだけを見ず、必要な情報を決められた時間内に安全かつ確実に届けられるかという運用品質まで含めて判断する必要があります。
個人端末の速度テストとは異なる
宇宙ステーションについて600Mbpsと紹介されていても、宇宙飛行士が一般的な速度測定サイトを使って600Mbpsを確認したという意味ではありません。
速度測定サイトの結果は端末から測定サーバーまでの経路を対象にするため、Wi-Fi、端末性能、地上のゲートウェイ、接続先サーバーなどが含まれ、宇宙区間だけの能力とは一致しません。
また、一般向けの速度テストは短時間に大きな通信を発生させるため、運用中の宇宙ステーションで個人が必要もなく回線を占有する測定を繰り返すことは現実的ではありません。
公表される600Mbpsは設備の設計、試験、運用で確認されたネットワーク支援能力であり、家庭用回線の口コミにある夜間の実測速度と直接比較できる種類の数字ではありません。
実際の使い心地を推測する場合は、Web閲覧やビデオ通話が可能であること、1秒未満の通信遅延が示されていること、リンクが利用できない時間帯もあることを組み合わせて考えるのが現実的です。
宇宙通信はこれからどこまで速くなるのか

宇宙ステーションでは従来の電波通信に加え、赤外線レーザーを使ってより多くのデータを送る光通信の実証も行われました。
通信速度を高めれば、より高精細な地球観測画像、多数の実験データ、医療情報、立体映像などを短時間で地上へ送れる可能性があります。
ただし、実証実験で達成した最高速度がそのまま宇宙飛行士の日常用インターネットへ提供されるわけではなく、安定性、設備費、天候、運用体制を含めた実用化が必要です。
レーザー通信で1.2Gbpsを実証した
NASAは国際宇宙ステーションに搭載したILLUMA-Tと静止軌道上のLCRDを使い、レーザーによる双方向の中継通信を実証しました。
この実験では国際宇宙ステーションから中継衛星へ最大1.2Gbpsの速度でデータを送り、地上の光通信局まで届ける経路が構築されました。
| 項目 | 無線通信の代表値 | レーザー通信実証 |
|---|---|---|
| データ速度 | 600Mbps | 最大1.2Gbps |
| 信号 | 電波 | 赤外線レーザー |
| 主な役割 | ISSの運用通信 | 次世代技術の実証 |
| 地上への経路 | TDRSと無線地上局 | LCRDと光地上局 |
| 運用状況 | 継続的な通信基盤 | 2024年に実験終了 |
レーザーは電波より高い周波数を利用できるため、一つの通信リンクに多くのデータを載せやすく、アンテナや送受信装置を小型化できる可能性もあります。
一方でレーザー光は細い範囲へ正確に向ける必要があり、地上へ直接送る場合には雲や大気の影響を受けやすいため、複数の光地上局や無線通信による補完が欠かせません。
ILLUMA-Tは2024年6月に実験を終えて国際宇宙ステーションから廃棄されているため、1.2Gbpsを現在の宇宙飛行士が常時使えるインターネット速度として紹介するのは正確ではありません。
商用衛星との連携が広がる
将来の宇宙施設では政府が保有する中継衛星だけに依存せず、民間企業が運用する低軌道衛星や通信サービスを組み合わせる方向が考えられています。
多数の衛星を連携させれば、利用できる通信経路を増やし、特定の中継衛星や地上局に障害が起きても別の経路へ切り替えられる可能性があります。
- 通信できる時間の拡大
- 回線容量の追加
- 経路障害への備え
- 設備調達の柔軟化
- 商業宇宙施設への対応
- 複数事業者による競争
低軌道の通信衛星は静止軌道の中継衛星より宇宙ステーションとの距離を短くできる場合がありますが、衛星が高速で移動するため、次の衛星へ通信を引き継ぐ制御が必要です。
地上向けの衛星インターネットと宇宙ステーション向けの通信では、アンテナ、認証、安全基準、運用方法が異なるため、既存サービスへ端末を持ち込むだけで接続できるわけではありません。
将来は無線、レーザー、政府系ネットワーク、商用衛星を用途に応じて選び、重要な通信を複数経路へ分散する構成が宇宙インフラの信頼性向上につながります。
月や火星では遅延が避けられない
地球低軌道にある国際宇宙ステーションでは地上との通信遅延を1秒未満に抑えられますが、月や火星へ進むと通信速度を高めても光が移動する時間そのものを短縮できません。
月と地球の間では信号の片道に約1.3秒が必要であり、返答を受け取るまでには通信処理を除いても約2.6秒以上かかるため、地上のオンライン会議とは異なる会話の間が生じます。
火星との距離は地球との位置関係によって大きく変わり、信号が片道で数分から20分以上かかることがあるため、地球からリアルタイムで機器を操作する方法には限界があります。
そのため将来の宇宙ネットワークでは回線速度を上げるだけでなく、通信が切れてもデータを保存し、次の接続先へ順番に転送する遅延・途絶耐性ネットワークが重要になります。
国際宇宙ステーションで試されてきた中継通信、優先制御、軌道上保存、レーザー通信は、月面基地や火星探査で大量のデータを確実に運ぶための基礎技術としても役立ちます。
宇宙ステーションの回線速度を正しく理解する
宇宙ステーションのインターネット速度を簡潔に表すなら、国際宇宙ステーションと地上を結ぶ通信能力の代表値は600Mbpsですが、宇宙飛行士一人が常時600Mbpsを利用できるわけではないという結論になります。
この回線はWeb閲覧だけのためにあるのではなく、宇宙飛行士の音声、ライブ映像、実験結果、機器の状態、地上からの指示などを運ぶ重要なインフラであり、安全やミッションに関係する通信が優先されます。
信号はTDRSなどの中継衛星と地上アンテナを経由するため遅延が生じ、NASAが示す通信処理は1秒未満でも、接続先の応答やページ表示を含む体感速度は地上の光回線と同じにならない場合があります。
将来に向けては国際宇宙ステーションで最大1.2Gbpsのレーザー通信も実証されましたが、この装置は2024年に実験を終えており、現在の日常用回線が1.2Gbpsになったという意味ではありません。
600Mbpsという最大値だけで速いか遅いかを決めず、共有回線であること、通信方向で帯域が異なること、遅延や接続可能時間があること、科学データを確実に届ける目的があることまで確認すれば、宇宙ステーションのインターネット環境を正確に理解できます。


