宇宙飛行士は長期間にわたって国際宇宙ステーションで生活するため、食事や睡眠だけでなく、下着の洗濯をどうするのかも気になるところです。
地上であれば汗をかいた下着は洗濯機で洗えますが、水や電力、収納場所が限られ、物が浮遊する宇宙では、家庭と同じ方法をそのまま持ち込むことはできません。
現在のISSには日常的に衣類を洗うための洗濯機がなく、下着や靴下、シャツなどは一定期間着用してから新しいものに交換し、使用済みの衣類は原則として廃棄する運用が採られています。
ただし、下着を交換する間隔は全員が一律ではなく、衣類の種類、仕事内容、発汗量、ミッションの計画、搭載できる枚数などによって異なるため、単純に毎日交換するとも一週間着続けるとも言い切れません。
ここでは、宇宙で洗濯ができない理由、宇宙飛行士が下着を清潔に保つ工夫、使い終わった衣類の行方、船外活動用の特殊な下着との違い、月や火星を目指す将来の洗濯技術まで詳しく紹介します。
宇宙の洗濯で下着はどうするのか

結論からいえば、現在の国際宇宙ステーションでは、普段着の下着を洗濯機で洗って再使用するのではなく、計画された期間だけ着用してから新しい下着へ交換します。
使用済みの下着は地球へ持ち帰って洗うのが基本ではなく、ほかの廃棄物と一緒に無人補給船へ収納され、機体が大気圏へ再突入するときに処分されるのが一般的です。
交換頻度については複数の公式説明に違いがあるため、特定の日数を絶対的な決まりとして捉えず、時期やミッションによって運用が変わると理解することが大切です。
洗わずに交換する
ISSの宇宙飛行士は、下着が汚れたら船内の洗濯機へ入れるのではなく、あらかじめ地上から運び込まれた新しい下着に交換し、着用を終えたものを廃棄物として保管します。
JAXAの宇宙での洗濯に関する案内でも、ISSには洗濯機がなく、水や汚水処理などの問題があるため、下着や衣類を交換後に廃棄する方法が説明されています。
この運用は一見すると大量の衣類を無駄にしているように見えますが、洗濯装置本体、水、洗剤、乾燥設備、配管、フィルター、交換部品を宇宙へ運ぶ負担まで含めると、ISSのように補給を受けられる拠点では合理的な場合があります。
宇宙船へ積める重量と容積には厳しい制限があるため、洗濯機を追加するなら、その分だけ実験装置、食料、医療用品、予備部品などを減らさなければならず、衣類だけを基準に判断することはできません。
したがって、現在の宇宙生活では洗濯を地上と同じ家事として行うのではなく、必要な枚数を事前に計算して運び、着用期間を管理しながら交換することが洗濯の代わりになっています。
交換頻度は一定ではない
宇宙の下着は何日ごとに交換するのかという疑問には一つの数字だけで答えにくく、公式機関の説明でも、毎日交換できる枚数を準備する例、三日に一枚とする例、数日間着用する例などが示されています。
JAXAの船内服に関する案内では、ポロシャツは十五日に一枚、下着は三日に一枚など、衣類の品目ごとに定められた枚数を持ち込む例が紹介されています。
一方で、JAXAの別のFAQには毎日着替えられる分の下着を持っていくという説明もあり、NASAの紹介記事には同じ下着を最長一週間ほど着用する場合があるとの記載もあるため、年代や任務条件による差を考慮する必要があります。
発汗の多い運動日、船外活動の準備日、体調、個人差、搭載された衣類の在庫によっても交換の判断は変わるため、宇宙飛行士が全員同じ下着を決められた日数だけ着続けるわけではありません。
検索で見かけた一つの数字を普遍的な規則と考えるのではなく、下着は数日以内を目安に交換されることが多いものの、実際の間隔はミッションごとに調整されると捉えるのが適切です。
衣類ごとに着用期間が違う
肌に直接触れて汗や皮脂が付きやすい下着と靴下は比較的短い間隔で交換されますが、ポロシャツ、ズボン、短パンなどは汚れ方が緩やかなため、より長く着用される傾向があります。
運動着はトレッドミルや自転車型装置などを使う際に大量の汗を吸収するため、通常の船内服とは別に管理され、乾かしながら複数回使った後で交換することがあります。
| 衣類 | 主な汚れ | 管理の考え方 |
|---|---|---|
| 下着 | 汗や皮脂 | 比較的早く交換 |
| 靴下 | 汗やにおい | 状態を見て交換 |
| 運動着 | 多量の汗 | 乾燥させて再着用 |
| シャツ | 皮脂や軽い汗 | 数日以上着用 |
| ズボン | 軽い汚れ | 長期間使用 |
宇宙では床を靴で歩いて泥や土を付けることがなく、調理中の油煙や屋外のほこりにも触れにくいため、地上の衣類とは汚れ方そのものが異なります。
その一方で、汗や皮脂、皮膚由来の微生物は地上と同じように付着するため、見た目に汚れていないことだけを理由に無制限に着続けることはできません。
衣類の種類ごとに必要な交換枚数を変えることで、衛生面を保ちながら、打ち上げる荷物の重量と収納スペースを抑える工夫が行われています。
使用済みは補給船へ入れる
交換した下着やシャツは、通常の家庭のように洗濯かごへ入れるのではなく、においや汚れが船内へ広がらないようにまとめられ、ほかの廃棄物とともに所定の場所で保管されます。
ISSへ物資を運んだ無人補給船の一部は、荷物を降ろした後に不要品を積み込む廃棄物保管場所として利用され、ステーションから分離した後に大気圏へ再突入します。
- 使用済み下着を分類する
- 袋などにまとめる
- 廃棄物として保管する
- 無人補給船へ移す
- 再突入時に処分する
大気圏へ再突入する補給船は高温になり、積み込まれた使用済み衣類も機体の多くの部分とともに燃焼するため、宇宙から地上のごみ処理施設へそのまま落とすわけではありません。
すべての宇宙船が廃棄物処分に使われるわけではなく、地球へ物資を持ち帰れる機体もあるため、どの船へ何を積むかは運用計画と機体の役割に従って決められます。
記念品などのごく一部を除いて使用済み衣類を持ち帰らないのは、帰還機の限られた積載量を、実験試料や重要機器などに優先して使う必要があるためです。
体を拭いて清潔を保つ
衣類を洗えない環境で下着だけを交換しても、体に付いた汗や皮脂を放置すれば不快感やにおいにつながるため、宇宙飛行士は濡れタオルや洗浄用の布などを使って体を拭きます。
無重量環境ではシャワーから水を流しても下へ落ちず、水滴が船内を漂って電子機器や通気口へ入り込むおそれがあるため、地上と同じ入浴方法は利用できません。
少量の水を含ませたタオルやすすぎを必要としない衛生用品で皮膚を清潔にし、汗を多くかいた部分を重点的に拭いてから新しい下着へ交換することで、限られた水でも衛生状態を保ちやすくなります。
髪も水を大量に流して洗うのではなく、少量の水やすすぎ不要のシャンプーを使って手入れし、使用した水分が船内へ飛び散らないようにタオルで丁寧に拭き取ります。
この方法は衣類そのものを洗浄するものではありませんが、下着へ移る汗や皮脂を減らし、着用中の不快感を抑えるうえで重要な日常作業になっています。
機能性素材を活用する
洗濯できない時間を少しでも快適に過ごすため、宇宙で使うインナーウェアには、汗を吸いやすく乾きやすい素材、においを抑える素材、微生物の増殖を抑制する機能を持つ素材が検討されています。
ISSの船内は温度と湿度が管理されていますが、宇宙飛行士は健康維持のために定期的な運動を行うので、運動着や下着には多くの汗が付き、速乾性が快適さを大きく左右します。
JAXAが紹介するISS搭載可能なインナーウェアにも、消臭抗菌機能、汗を吸収して乾かしやすくする生地、縫い目を減らして肌への刺激を抑える構造などが採用されています。
ただし、抗菌や消臭という表示は衣類が永久に衛生的であることを意味せず、汗や皮脂そのものを消滅させる機能でもないため、必要な時期に交換する運用は欠かせません。
機能性素材の役割は洗濯を完全に不要にすることではなく、交換までの着用時間を安全かつ快適に過ごしやすくし、搭載する衣類の枚数を抑えることにあります。
宇宙服の下着は別物
宇宙の下着という言葉は、ISSの船内で普段着として身に着けるパンツや肌着だけでなく、船外活動用宇宙服の内側に着用する特殊な衣類を指す場合があります。
船外活動では、排せつに備える吸収性の衣類、肌との接触を調整する下着、細い管へ冷却水を循環させる液体冷却換気服などを重ね、宇宙服内部の温度と湿度を管理します。
- 普段のパンツや肌着
- 吸収性を持つ専用衣類
- 肌を保護する下着
- 水冷管を備えた冷却服
- 気密性を保つ宇宙服
NASAの宇宙服に関する説明では、宇宙服の下に全身を覆う衣類を着用し、その内部に通した管へ水を流して体を冷却する仕組みが紹介されています。
冷却服などは高価で構造も複雑なため、日常用のパンツと同じように一度着て廃棄するとは限らず、複数回使用や共有を前提として衛生管理を行う必要があります。
普段の下着を何日着るのかという話と、船外活動用の冷却下着をどのように清潔にするかという話は条件が異なるため、情報を読む際はどちらを指しているか確認することが重要です。
宇宙で洗濯できない理由

宇宙で洗濯を難しくしているのは、単に洗濯機を置く場所がないからではなく、水、空気、電力、排水、振動、安全性などの問題が互いに関係しているためです。
地上の洗濯機は重力によって水を槽の下へ集め、排水管へ流し、回転によって脱水できますが、微小重力環境では同じ設計を使っても水と衣類を安定して制御できません。
洗濯装置を実用化するには、洗う性能だけでなく、汚水を回収して再利用できる状態へ戻し、船内の空気や機器へ悪影響を与えない仕組みまで完成させる必要があります。
水を自由に使えない
ISSで使える水は地上の家庭のように水道から無制限に供給されるものではなく、地上から運ぶ水と、船内で回収して再生する水を組み合わせながら慎重に管理されています。
宇宙飛行士の飲料、食事、衛生、実験、装置の運用などにも水が必要なため、大量の水を一度に使う一般的な洗濯方式は、生命維持に使える資源を圧迫する可能性があります。
- 飲料水を確保する
- 食事に水を使う
- 衛生用の水を残す
- 実験用水を管理する
- 再生設備の負荷を抑える
洗濯で使った水には汗、皮脂、繊維くず、洗剤成分などが混ざるため、単に槽から吸い出せば再利用できるわけではなく、既存の水再生設備で安全に処理できる成分へ制限しなければなりません。
NASAが行った宇宙用洗剤の研究でも、少量の水で機能することに加え、洗濯後の水を浄化して再び利用できることや、船内の生命維持設備へ影響しないことが重要な条件とされています。
将来の宇宙洗濯機には、汚れを落とす能力よりも先に、水を逃さず回収し、何度も循環利用できる閉鎖型のシステムとして成立することが求められます。
水滴が浮遊する
微小重力環境では水が下へ流れず、表面張力によって球状の塊になったり、衣類や装置の壁へ張り付いたりするため、洗濯槽の底に水をためる地上方式はそのまま使えません。
装置から漏れた水滴が船内を漂うと、電気機器の内部へ入り込んだり、通気経路をふさいだり、目や鼻へ付着したりするおそれがあるため、洗濯水を完全に封じ込める設計が必要です。
| 課題 | 地上 | 宇宙 |
|---|---|---|
| 水の移動 | 下へ流れる | 浮遊し付着する |
| 排水 | 重力で流す | 吸引して回収する |
| 脱水 | 回転で排出 | 姿勢制御が必要 |
| 乾燥 | 湿気を排出 | 船内で回収する |
| 水漏れ | 床へ落ちる | 機器へ漂う |
洗濯中に衣類を動かす方法も難しく、水と布が一つの塊になって槽の一部へ張り付けば、洗剤が均一に行き渡らず、汚れ落ちやすすぎにばらつきが生じます。
脱水のために槽を高速回転させる場合は、装置全体へ反作用が加わり、振動や姿勢への影響が発生するため、回転を打ち消す機構や確実な固定方法も必要になります。
宇宙用洗濯機は小型のドラムを作れば完成するものではなく、水と衣類の位置を常に把握しながら、吸引、圧力、毛細管現象などを利用して制御する装置になります。
乾燥にも設備が必要になる
衣類を洗った後は乾燥させなければなりませんが、濡れた下着を船内へそのまま広げると、水分が室内の空気へ移り、湿度調整装置へ大きな負荷をかける可能性があります。
宇宙船は閉鎖された環境であるため、乾燥時に出た水蒸気を外へ自由に排出するのではなく、結露させて回収し、必要に応じて浄化工程へ戻さなければなりません。
乾燥中には衣類から細かな繊維や皮膚片が離れることもあり、それらが船内を浮遊してフィルターへ詰まったり、実験装置へ入り込んだりしないように空気も管理する必要があります。
加熱乾燥は電力を消費し、過熱や発火の危険も伴うため、低温の空気循環、真空を利用した乾燥、圧力制御、マイクロ波など複数の方法が研究対象になります。
洗浄、すすぎ、脱水、乾燥、排水処理、空気清浄を一台または一つのシステムにまとめなければならない点が、宇宙の洗濯設備を重く複雑にする大きな理由です。
宇宙飛行士が下着を管理する方法

洗濯機がなくても快適に暮らせるように、宇宙飛行士の衣類は出発前から必要枚数、素材、着用予定、収納場所、廃棄方法まで計画されています。
軌道上では、使用前の下着と使用済みの下着を分け、汗をかいた衣類は可能な範囲で乾かし、船内の限られた空間へにおいや湿気が広がらないように扱います。
清潔さだけでなく、物を紛失しやすい微小重力環境や、共同生活を送る閉鎖空間への配慮も、衣類管理の重要な要素です。
必要枚数を事前に決める
宇宙へ持っていく下着の枚数は、滞在日数だけで単純に決めるのではなく、予定される交換間隔、運動日、船外活動、予備日数、補給便の時期などを踏まえて計算されます。
毎日一枚交換する計画であれば長期滞在ほど大量の下着が必要になるため、衛生面で許容できる範囲内で複数日着用し、機能性素材を利用して枚数を抑える選択肢が検討されます。
- 標準の交換分
- 運動用の衣類
- 船外活動の準備分
- 汚損時の予備
- 補給遅延への備え
予定外に飲み物をこぼした場合や、装置の整備で衣類を汚した場合に備えて予備も必要ですが、予備を増やしすぎるとほかの重要な物資を運べなくなります。
補給船の到着が遅れる可能性もあるため、ぎりぎりの枚数だけを搭載するのではなく、一定の余裕を確保しながら、船内の在庫を地上の管制チームと共有して管理します。
宇宙飛行士が軌道上で気分だけを基準に交換日を決めるのではなく、打ち上げ前の物資計画と実際の衣類の状態を組み合わせて調整している点が特徴です。
汗を乾かして再着用する
運動後のシャツや短パンは汗で湿っていても、すぐに密閉するとにおいや微生物の増加につながりやすいため、船内の空気が流れる場所などを利用して乾かしてから再び着る場合があります。
微小重力では衣類を床へ置くことができないので、面ファスナー、ひも、クリップ、手すりなどを利用し、換気口をふさがない安全な場所へ固定する必要があります。
| 場面 | 扱い方 | 注意点 |
|---|---|---|
| 運動直後 | 湿気を逃がす | 機器へ触れさせない |
| 再着用前 | 状態を確認 | 強いにおいを確認 |
| 交換後 | 袋へまとめる | 清潔品と分離する |
| 保管中 | 固定する | 漂流を防ぐ |
| 廃棄時 | 補給船へ移す | 在庫を記録する |
乾かすことで湿った不快感は減らせますが、汗に含まれる塩分や皮脂まで取り除けるわけではないため、乾燥は洗濯の代わりではなく再着用しやすくする一時的な処置です。
衣類を長く使いすぎると、肌への刺激、におい、着心地の悪化が起こる可能性があるので、乾いているかどうかだけでなく、汚れや体調も含めて交換を判断します。
この運用に適した衣類には、汗を広い範囲へ移動させて乾燥を早める性能や、濡れても肌へ張り付きにくい構造が求められます。
においへの配慮を重視する
ISSは複数の宇宙飛行士が長期間共同生活する閉鎖空間であり、窓を開けて換気できないため、使用済みの下着や運動着から出るにおいを広げない配慮が欠かせません。
船内では生命維持装置が空気を循環させ、二酸化炭素やさまざまな成分を除去していますが、においの原因になる衣類をどこへ置いても問題がないわけではありません。
使用中の衣類は十分に乾かし、使用を終えたものは清潔な衣類と分けて袋などへまとめ、共用スペースや食事場所の近くへ放置しないことが共同生活の快適さにつながります。
強い香りで隠す方法も、香料成分が空気処理設備やほかの乗員へ影響する可能性があるため、地上の家庭と同じ感覚で大量の消臭スプレーを使えるとは限りません。
素材の消臭機能、体を拭く習慣、衣類の乾燥、適切な交換、密閉保管を組み合わせ、単一の製品に頼らずにおいを管理することが現実的な方法です。
月や火星では洗濯が必要になる

ISSでは定期的な補給が可能なため、衣類を使い切って廃棄する方法が成立しますが、地球から遠く離れる月面の長期滞在や火星探査では同じ方法を続けることが難しくなります。
数年分の下着や作業着をすべて地球から運ぶと、衣類だけで大きな重量と保管空間を占めるため、水を循環利用できる洗濯設備や長寿命の衣類が重要になります。
一方で、洗濯機の故障が生活へ直結するリスクもあるので、将来は洗濯設備、抗菌素材、部分洗浄、予備衣類などを組み合わせた仕組みになると考えられます。
長期探査では使い捨てに限界がある
ISSなら補給便で新しい下着を届けられますが、火星へ向かう宇宙船では必要なときに追加の衣類を注文できず、出発時に積んだ物資だけで長期間生活しなければなりません。
乗員数と滞在年数が増えるほど必要な下着の枚数も増え、使用済み衣類を廃棄しても船外へ簡単に捨てられないため、保管場所の問題も大きくなります。
- 補給回数が少ない
- 衣類の重量が増える
- 廃棄物が蓄積する
- 収納場所を圧迫する
- 衛生リスクが高まる
衣類を再使用できれば搭載量を減らせますが、洗濯機と水処理装置の重量が追加されるため、何日以上の任務なら洗濯方式が有利になるかをシステム全体で比較する必要があります。
洗濯装置が故障すると清潔な衣類を確保できなくなるため、すべてを一台の機械へ依存せず、手動で部分洗浄できる用品や長期間着られる衣類を予備手段として残すことも重要です。
将来の探査では、下着を使い捨てるか洗うかという二択ではなく、任務の長さや水資源に応じて両方を使い分ける運用が現実的です。
宇宙用洗剤が研究されている
宇宙で洗濯を実現するには、市販の洗剤で汚れが落ちるかどうかだけでなく、微小重力でも成分が安定し、少ない水で機能し、水再生設備によって処理できることが必要です。
NASAが紹介したISSでの洗剤研究では、宇宙向けに開発された分解可能な洗剤成分の安定性や洗浄性能を調べる実験が行われました。
| 研究項目 | 求められる性質 |
|---|---|
| 洗浄 | 少量で汚れを落とす |
| すすぎ | 水の使用を抑える |
| 排水 | 再生処理しやすい |
| 空気 | 有害成分を出さない |
| 保管 | 長期間安定する |
洗剤が十分に分解されなければ、再生された水へ成分が残ったり、フィルターや配管へ蓄積したりする可能性があるため、洗濯だけを独立して評価することはできません。
香料や泡立ちも地上では使用感を高める要素になりますが、宇宙では空気や水の処理を難しくする場合があるため、必要最小限の成分で機能することが優先されます。
ISSで洗剤の実験が行われたことは、宇宙飛行士が現在その洗剤で日常的に下着を洗っていることを意味せず、将来の洗濯システムへ向けた研究段階として区別する必要があります。
洗わず清潔にする技術もある
月面や火星で使う衣類の衛生対策は、水を使った洗濯だけではなく、紫外線、オゾン、熱、減圧、抗菌性のある表面処理などを利用し、においや微生物を抑える方法も研究されています。
特に船外活動用の冷却下着や宇宙服の内装は、複雑な管や部品を含み、一般的な洗濯槽へ入れられないため、素材自体へ微生物の増殖を抑える性質を持たせる考え方が有力です。
ESAの月面用宇宙服素材に関する研究では、共有される可能性がある宇宙服の内側で微生物が増えることを防ぐため、抗菌性を持つ繊維加工が検討されています。
ただし、紫外線や薬剤で微生物を減らしても、繊維へ残った汗の塩分、皮脂、細かな汚れがすべて除去されるとは限らないため、洗浄、除菌、消臭は別の機能として評価する必要があります。
肌へ長時間触れる素材では、強い抗菌成分が皮膚刺激を起こしたり、繰り返し使用で性能が低下したりする可能性もあるため、安全性と耐久性の確認が欠かせません。
将来は、水を循環させる洗濯機で日常衣類を洗い、洗いにくい宇宙服の内装には抗菌素材や非水系の処理を使うなど、衣類の構造に応じた方法が選ばれると考えられます。
宇宙の下着は資源管理の工夫で成り立つ
現在のISSでは、宇宙飛行士の下着を地上のように洗濯するのではなく、必要枚数をあらかじめ搭載し、衣類の種類や汚れ方に応じて数日程度着用してから交換する方法が中心です。
交換頻度は毎日、三日ごと、数日間など公式説明にも幅があり、時期、任務、発汗量、衣類の機能、在庫によって変わるため、全宇宙飛行士に共通する一つの日数があるわけではありません。
使用済みの下着は体を拭くタオルで洗い直すのではなく、ほかの廃棄物と分けて管理した後、無人補給船へ積み込まれ、再突入時に処分されるのが一般的です。
宇宙で洗濯が難しい背景には、水の不足だけでなく、浮遊する水滴、汚水の浄化、乾燥時の湿気、繊維くず、電力、振動、装置の重量など、閉鎖環境特有の複数の課題があります。
月や火星での長期生活では使い捨てだけでは対応しにくくなるため、少量の水で洗って再利用する装置、宇宙用洗剤、速乾性や消臭性を備えた衣類、微生物を抑える素材を組み合わせることが、将来の宇宙生活を支える重要な技術になります。



