月面を歩く宇宙飛行士の映像を見ると、体がふわりと浮き上がり、地球上とはまったく違う跳ねるような動きに見えます。
この動きが生まれるのは、月の表面で物体を引っ張る重力が地球表面の約6分の1しかなく、同じ人や道具でも地球にいるときより重さが小さくなるためです。
しかし、月の質量が地球の約81分の1であることを知ると、重力も81分の1になるのではないか、月が小さいことや大気がほとんどないことは重力とどのように関係するのかと疑問に感じるかもしれません。
月の重力が地球の6分の1になる理由は、天体が持つ質量だけではなく、表面が天体の中心からどれだけ離れているかという半径も同時に考えると理解でき、数式が苦手な人でも地球と月の大きさを比べれば仕組みを整理できます。
月の重力が地球の6分の1になる理由

結論からいうと、月の表面重力が地球の約6分の1になるのは、月の質量が地球より大幅に小さい一方で、月面から月の中心までの距離も地球より短いからです。
重力は天体の質量が大きいほど強くなりますが、天体の中心から離れるほど急速に弱くなるため、質量の比だけを見ても表面重力の比は求められません。
月は地球の約81分の1の質量しか持ちませんが、半径も地球の約27%しかないため、月面は小さな月の中心に比較的近く、その近さが重力をある程度強める方向に働きます。
結論は質量と半径
天体の表面重力を決める中心的な要素は、その天体が持つ質量と、表面から中心までの距離に相当する半径です。
質量が大きな天体ほど周囲の物体を強く引き付けますが、同じ質量であっても表面が中心から遠ければ、表面で感じる引力は弱くなります。
月は地球より質量が小さいため重力を弱くする条件を持つ一方、半径も小さく、月面に立つ人は月の中心から約1737.5キロメートルという比較的近い位置にいます。
地球の表面は中心から約6371キロメートル離れているため、月と地球の表面重力を比べるときは、質量の差に加えて約3.7倍ある中心までの距離の差も計算に入れる必要があります。
この二つの効果を重ねると、月面の重力加速度は約1.624メートル毎秒毎秒となり、地球表面の標準重力加速度である約9.80665メートル毎秒毎秒の約0.166倍に落ち着きます。
質量が重力を生む
質量を持つ物体同士には互いに引き合う力が働き、この性質を表したものがニュートンの万有引力です。
月も岩石や金属などからできた大きな質量を持つ天体なので、人や探査車、石、宇宙船などを月の中心方向へ引き付けています。
ただし、月の質量は約7.35×10の22乗キログラムであり、約5.97×10の24乗キログラムある地球と比べると、およそ81分の1にすぎません。
この大きな質量差が、月の重力を地球より弱くする最大の要因であり、月面で宇宙飛行士が軽やかに動ける根本的な理由にもなっています。
一方で、質量が81分の1だから表面重力も81分の1だと考えると、天体の大きさによって変わる中心からの距離を無視することになるため、実際の6分の1という値とは大きくずれます。
距離の二乗で弱くなる
重力には、天体の中心からの距離が長くなるほど弱くなり、その弱まり方が距離そのものではなく距離の二乗に反比例するという重要な特徴があります。
中心からの距離が2倍になると重力は2分の1ではなく4分の1になり、距離が3倍になると9分の1になるため、半径の違いは表面重力に大きな影響を与えます。
地球の半径は月の約3.67倍なので、仮に地球と月が同じ質量だった場合、中心に近い月面での重力は距離の効果だけで地球表面より約13.5倍強くなる計算です。
実際には月の質量が地球の約81分の1しかないため、距離による約13.5倍の効果と組み合わせると、13.5を81で割った約0.167という比率になります。
つまり、月の小ささは重力をさらに弱くする原因ではなく、表面を中心に近づけることで、極端に小さい月の質量による弱さを部分的に補っていると考えると理解しやすくなります。
地球と月の数値
月の重力が約6分の1になる計算を確かめるには、地球と月の質量、半径、密度、表面重力を同じ表で比べると関係を把握しやすくなります。
NASAが公開している地球と月の比較データでは、月の赤道半径は1737.5キロメートル、表面重力は1.624メートル毎秒毎秒と示されています。
| 比較項目 | 地球 | 月 |
|---|---|---|
| 質量 | 約5.97×10の24乗kg | 約7.35×10の22乗kg |
| 半径 | 約6371km | 約1737.5km |
| 平均密度 | 約5.51g毎立方cm | 約3.34g毎立方cm |
| 表面重力 | 約9.81m毎秒毎秒 | 約1.62m毎秒毎秒 |
| 地球を1とした重力 | 1 | 約0.166 |
表の数値からも、月は地球より小さいだけでなく平均密度も低く、同じ大きさの球として比べても内部に含まれる質量が少ない天体であることが分かります。
なお、半径や重力は測定地点や採用する基準によってわずかに異なるため、一般向けの説明では細かな小数を丸めて約6分の1と表現されます。
密度からも説明できる
球形に近い天体では、表面重力はおおまかに平均密度と半径を掛け合わせた値に比例するため、質量を直接使わずに月の重力をイメージすることもできます。
月の平均密度は地球の約61%で、半径は地球の約27%なので、この二つを掛けると約0.61×0.27となり、結果は約0.165です。
- 月の平均密度は地球の約61%
- 月の半径は地球の約27%
- 二つの比を掛けると約16.5%
- 約16.5%はおよそ6分の1
密度が低いということは、同じ体積の地球物質と比べたときに月を構成する物質の質量が少ないことを意味し、月の金属核が地球の核より相対的に小さいことなども平均密度の違いに関係しています。
ただし、実際の天体内部は一様な密度ではなく、地殻、マントル、核などで構造が異なるため、密度と半径による説明は全体像をつかむための近似として利用するのが適切です。
数式で比率を求める
天体表面の重力加速度は、万有引力定数をG、天体の質量をM、天体の半径をRとして、g=GM÷Rの二乗という式で表せます。
月と地球の重力の比を求める場合は万有引力定数Gが共通なので消去でき、月の質量を地球の質量で割った値に、地球の半径を月の半径で割った値の二乗を掛ければ計算できます。
数値を概算すると、質量比は約1÷81.3、半径比は約6371÷1737.5であるため、重力比は約1÷81.3×3.67の二乗となります。
3.67の二乗は約13.5なので、最終的な値は約13.5÷81.3となり、約0.166、すなわち約6.0分の1という結果が得られます。
この計算から、質量の小ささだけなら重力を81分の1にするところを、月面が中心に近いことによる効果が約13.5倍分だけ補い、最終的に6分の1程度になっていることが分かります。
約6分の1という表現
月の重力は一般に地球の6分の1と説明されますが、厳密に6で割った値と完全に一致するわけではなく、覚えやすく丸めた近似表現です。
NASAの数値である月面の1.624メートル毎秒毎秒を地球の9.80665メートル毎秒毎秒で割ると約0.1656になり、逆数では約6.04分の1です。
さらに、月は完全な球ではなく、地形の高さや地下の密度分布も場所によって異なるため、月面重力はどこでもまったく同じ値になるわけではありません。
地球でも赤道と極、高地と低地では重力加速度に小さな違いがあるため、地球のどの場所を基準にするかによって月との比率もわずかに変化します。
学校教育や日常的な説明では細かな差を扱う必要がないため約6分の1を使い、探査機の軌道計算や着陸制御では、地域ごとの重力分布を含むさらに精密なモデルを利用します。
月面では重さや動きがどう変わるか

月の重力が地球の約6分の1になると、人や物体の質量は変わらないまま、地面に押し付けられる力としての重さだけが約6分の1になります。
落下するときの加速が小さくなるため、ジャンプ、歩行、物を投げる動作、転倒したときの動きなども地球上とは異なります。
ただし、体や荷物の動かしにくさを表す慣性は地球上と変わらないので、重さが軽いからといって大きな装置を簡単に加速させたり、急停止させたりできるわけではありません。
質量は変わらない
質量は物体そのものが持つ量や動かしにくさを表し、月へ移動しても60キログラムの人の質量は60キログラムのままです。
一方の重さは重力によって物体に働く力なので、質量にその場所の重力加速度を掛けて求め、力の単位であるニュートンで表します。
| 質量60kgの人 | 地球 | 月 |
|---|---|---|
| 質量 | 60kg | 60kg |
| 重力加速度 | 約9.81m毎秒毎秒 | 約1.62m毎秒毎秒 |
| 重さ | 約588N | 約97N |
| 地球上の重量感覚との比較 | 約60kg相当 | 約10kg相当 |
JAXAの質量と重さに関する説明でも、質量60キログラムの人は月面で約100ニュートンの重さになる一方、質量自体は変わらないと整理されています。
ばねの伸びで重さを測る体重計は月面では地球上の約6分の1に相当する値を示しますが、分銅と釣り合わせる天びんでは両側に同じ割合の重力が働くため、質量を比較できます。
ジャンプや落下が変わる
月面では下向きの加速度が小さいため、同じ初速度で跳び上がれたと仮定すると、到達する高さは地球上のおよそ6倍になります。
同じ高さから静かに物を落とした場合、落下時間は重力比の平方根に従って変わるため、月面では地球上の約2.45倍の時間がかかります。
- 理想的なジャンプ高は約6倍
- 同じ高さからの落下時間は約2.45倍
- 投げた物の滞空時間は長くなる
- 空気抵抗はほぼ働かない
- 落下物は最後には必ず月面へ戻る
投げた物の飛距離も、同じ速度と角度で投げれば理想計算では約6倍まで伸びますが、実際には宇宙服の可動範囲、足場の状態、投げ方の変化などが影響します。
月には地球のような濃い大気がないため、羽根と金づちのように形や重さが異なる物体でも、空気抵抗を受けなければ同じ加速度で落下することがアポロ計画の実験でも示されています。
宇宙飛行士が跳ねて歩く理由
アポロ計画の宇宙飛行士が月面で跳ねるように移動していたのは、単に体が軽くなったからだけではなく、重い宇宙服の構造と月面環境に適した歩き方を選んでいたからです。
宇宙服や生命維持装置には地球上で大きな重量がありますが、月面で地面へ押し付けられる力は約6分の1になるため、宇宙飛行士は装備を身に着けたままでも体を持ち上げやすくなります。
ただし、装備を含めた質量と慣性は減らないので、横方向へ動き始めた体は急には止まりにくく、重心を崩すと姿勢を戻すまでに時間がかかります。
地球と同じように左右の足を細かく交互に出すより、両足を使って軽く跳ねる方法や、片足ずつ弾むように進む方法のほうが安定しやすく、月面映像で特徴的な歩行が見られます。
月面のレゴリスは細かな粒子で滑りやすく、岩やクレーターもあるため、低重力だから自由自在に走れるわけではなく、転倒や装備の損傷を避ける慎重な移動が必要です。
誤解しやすい月の重力

月の重力については、宇宙だから無重力である、大気がないから重力も弱い、地球から遠い側では物が浮くといった誤解が生まれやすくなっています。
実際の月面には明確な重力があり、手を離した物は月の中心方向へ落ち、十分な速度を与えられなければ宇宙へ飛び去ることもありません。
月自身の引力、地球から受ける引力、大気の有無、宇宙船内で感じる無重量状態を分けて考えると、月面環境を正確に理解できます。
月面は無重力ではない
月面は宇宙空間にあるものの無重力ではなく、地表付近では毎秒約1.62メートル毎秒ずつ落下速度を増やす重力が働いています。
宇宙飛行士が高く跳べる映像は重力が存在しないことを示すものではなく、地球より弱い重力のもとで上昇時間と下降時間が長くなっている様子です。
| 環境 | 重力の状態 | 人が感じる状態 |
|---|---|---|
| 地球表面 | 約1G | 通常の重さ |
| 月面 | 約0.166G | 地球の約6分の1の重さ |
| 周回中の宇宙船 | 重力は存在 | 自由落下で無重量感 |
| 重力源から非常に遠い空間 | 極めて弱い | ほぼ無重力 |
国際宇宙ステーションの船内で人が浮くのも、地球の重力が届いていないからではなく、宇宙ステーションと乗員が一緒に地球へ落下し続けながら横方向へ進んでいるためです。
月面では地面が落下を止めるので無重量状態にはならず、弱いながらも足の裏には地面からの反作用が加わり、自分の重さを感じます。
地球の引力も届いている
月は地球の重力に引かれて公転しているため、月面にいる人や物体にも地球からの引力は届いています。
それでも月面の物体が地球へ直接落ちていかないのは、月自身の重力が月面付近では強く働くうえ、月と月面上の物体がほぼ一緒に地球の周囲を公転しているからです。
- 月自身の重力は物体を月面へ引く
- 地球の重力は月全体を公転させる
- 太陽の重力も地球と月の運動に作用する
- 引力の方向と強さは位置によって異なる
- わずかな差が潮汐力を生む
地球側と反対側では地球から受ける引力にわずかな差があり、この差で月の内部が変形したり、月の自転周期と公転周期がそろったりする潮汐作用が生じます。
ただし、月の表側だけ重力が強く、裏側では人が浮くというほどの差ではなく、月面のどこにいても基本的には月の中心方向へ引かれます。
大気の薄さは直接の原因ではない
月にほとんど大気がないことと重力が弱いことは関連がありますが、大気がないから重力が6分の1になるわけではありません。
重力の強さは主に天体の質量と中心からの距離で決まり、地表を覆う空気の有無は表面重力を決める基本式には含まれません。
一方で、月の質量と重力が小さいことは、気体を長期間つなぎ止めにくくする要因となり、高温になった気体分子や太陽風の影響を受けた粒子が宇宙空間へ失われやすくなります。
月の脱出速度は時速約8552キロメートルで、地球の時速約4万284キロメートルより大幅に低いため、月から物質が宇宙へ抜け出すために必要な速度も小さくなります。
したがって、弱い重力が薄い大気の一因になるという方向の関係はありますが、薄い大気が弱い重力を作るという逆向きの説明は適切ではありません。
月の重力を調べる方法と探査への影響

月の重力は、地球から月の動きを観測する方法、月を周回する探査機の軌道を追跡する方法、月面に置いた機器で測定する方法などを組み合わせて調べられています。
平均的な表面重力が約6分の1だと分かるだけでなく、地下の密度が高い場所や低い場所によって生じる小さな重力差も詳細に地図化されています。
こうした情報は月の内部構造を研究するだけでなく、着陸船の降下、探査車の走行、基地設備の設計、宇宙飛行士の安全確保にも欠かせません。
重力は軌道から測定できる
天体の質量は、周囲を回る物体の軌道半径や公転周期を測定し、重力によってどの程度軌道が曲げられているかを調べることで求められます。
月の場合は地球の周りを回る運動や探査機の軌道を精密に観測することで月全体の質量が分かり、半径の測定値と組み合わせれば平均的な表面重力を計算できます。
| 測定方法 | 分かること |
|---|---|
| 月の公転観測 | 地球と月の力学的関係 |
| 探査機の軌道追跡 | 月の質量と局所重力 |
| レーザー測距 | 地球と月の距離変化 |
| 月面機器 | 現地の加速度や振動 |
| 地形測量 | 中心からの距離 |
測定値には誤差があるため、一つの方法だけで決めるのではなく、電波による追跡、レーザー測距、画像から得た地形データなどを突き合わせて精度を高めます。
平均的な月の重力を学習する場合は1.62メートル毎秒毎秒で十分ですが、実際の宇宙探査では着陸地点周辺の地形や重力異常まで含めた数値が使われます。
場所によってわずかに異なる
月面の重力は約6分の1という一つの値で表されることが多いものの、地下にある物質の密度や地形の高さが均一ではないため、場所ごとに小さな差があります。
巨大な天体衝突で形成された盆地の地下には密度の高い物質が集まった領域があり、周囲より引力が強い質量集中部はマスコンと呼ばれます。
- 高地では中心から遠くなる
- 低地では中心に近くなる
- 高密度の地下構造は引力を強める
- 低密度の地殻は引力を弱める
- マスコンは探査機の軌道を乱す
NASAのGRAIL計画では、月を周回する2機の探査機の間隔が重力の強弱によってわずかに変化する様子を測り、月の詳細な重力分布図を作成しました。
局所的な差は人が体感できるほど大きくありませんが、長期間周回する探査機では小さな影響が積み重なるため、軌道の予測や修正に重力分布の情報が必要です。
月面探査の設計が変わる
月の低重力はロケットの離着陸に必要な推進力を小さくできる利点がある一方、人や機械の動きが地球上の試験結果と異なるという設計上の課題を生みます。
探査車は車体の重さが約6分の1になるため、車輪を地面へ押し付ける力と摩擦力が小さくなり、急加速や急旋回をすると空転したり横滑りしたりする可能性があります。
資材や装置は持ち上げやすくなりますが、質量と慣性は変わらないため、大型設備を動かした後に止める装置や、作業中の反動で宇宙飛行士が倒れないための足場が必要です。
着陸船は月面へ近づくにつれて降下速度を適切に落とさなければならず、大気によるパラシュート減速を利用できないため、ロケットエンジンで速度と姿勢を制御します。
将来の長期滞在では、6分の1重力が骨、筋肉、循環器、平衡感覚などへ与える影響も重要になり、無重力より負担が小さいのか、健康維持に十分な重力なのかを継続して研究する必要があります。
月の小さな質量と半径を合わせれば理由が見える
月の重力が地球の約6分の1になる最大の理由は、月の質量が地球の約81分の1しかなく、物体を引き付ける力の源が地球より大幅に小さいことです。
ただし、重力は天体の中心からの距離の二乗に反比例し、月の半径は地球の約27%なので、月面が中心に近いことによる効果が質量差を部分的に補い、表面重力は81分の1ではなく約6分の1になります。
月面では人の質量や物体の慣性は変わりませんが、重さは約6分の1になり、ジャンプが高くなる、落下がゆっくりに見える、投げた物の滞空時間が長くなるなど、地球とは異なる動きが現れます。
月面は無重力ではなく、大気の薄さが重力を弱くしているわけでもないため、質量、半径、重さ、慣性、大気を分けて考えることが、月の環境を誤解せずに理解する近道です。
質量比と半径比を使って、約1÷81.3×3.67の二乗という計算を行えば約0.166になり、月の重力が地球のおよそ6分の1と呼ばれる理由を数値でも確認できます。



