宇宙空間で血液はドロドロになるのか?血栓リスクと体液変化を正しく捉える!

宇宙空間で血液はドロドロになるのか?血栓リスクと体液変化を正しく捉える!
宇宙空間で血液はドロドロになるのか?血栓リスクと体液変化を正しく捉える!
宇宙生活と宇宙の雑学

宇宙空間では血液がドロドロになり、宇宙飛行士は地上よりも血栓ができやすくなるという話を聞くと、無重力によって血液そのものが急に粘り気を増すような状態を想像するかもしれません。

しかし、実際に起きている変化はそれほど単純ではなく、微小重力による体液の頭側移動、血漿量の減少、静脈血流の停滞、赤血球量の調節、血管内皮や凝固系への影響が複雑に重なっているため、日常語の「ドロドロ」だけで説明すると重要な違いを見落としてしまいます。

特に注目されているのは首を通る内頸静脈の血流で、長期宇宙滞在中の一部の宇宙飛行士では流れが遅くなったり逆向きになったりしたほか、実際に血栓が確認された事例もあり、有人月探査や火星探査を見据えた宇宙医学の課題になっています。

ここでは、宇宙空間で血液の濃さや流れがどう変化するのか、血液粘度の上昇と血流停滞は何が違うのか、宇宙貧血と血栓は矛盾しないのか、宇宙飛行士が受ける検査や対策には何があるのかを、現在の研究で判明している範囲と未解明の部分を分けながら整理します。

宇宙空間で血液はドロドロになるのか

結論からいえば、宇宙空間に出ると全員の血液が一様にドロドロになると断定するのは正確ではありません。

微小重力では血液を含む体液の分布が地上とは大きく変わり、血漿量の減少によって一時的に血液成分が濃く見える可能性がある一方、赤血球の破壊や赤血球量の減少も起こるため、飛行時期や測定項目によって見え方が異なります。

血栓との関係で重要なのは、血液の粘度だけでなく、静脈内で血液が滞ること、血管壁の状態が変化すること、凝固しやすさが変化することを合わせて評価する視点です。

一律に粘度が上がるわけではない

一般に血液がドロドロしているという表現は、赤血球などの割合が高い状態、血液粘度が高い状態、脱水で血漿が減った状態、血流が遅い状態、血栓ができやすい状態をまとめて指すことがありますが、医学的にはそれぞれ別の現象です。

宇宙飛行では血漿量、赤血球量、血管の太さ、静脈圧、血流速度、凝固因子、炎症反応などが同じ方向へ変わるとは限らないため、採血結果の一つだけを見て血液全体が粘くなったと判断することはできません。

たとえば血漿量が赤血球量より先に減ればヘマトクリットが上昇して濃縮したように見えますが、その後に赤血球量が調整されれば数値は変化し、さらに地球へ帰還して体液分布が戻る過程でも血液検査の意味が変わります。

したがって、宇宙空間での血液変化を理解する際は、ドロドロになるかという二者択一ではなく、いつ、どの血管で、どの成分が、どの程度変化したのかを分けて考える必要があります。

体液が頭側へ移動する

地上で立っている人の体には重力による頭から足方向への圧力差があり、血液や組織液の一部は下半身に集まりやすくなりますが、微小重力環境ではこの圧力差がほぼ失われます。

その結果、脚に分布していた体液が胸部や頭部へ移動し、宇宙飛行の初期には顔がむくんで見える一方、脚が細く見える特徴的な変化が生じ、心臓や首の静脈にも地上とは異なる負荷がかかります。

この頭側への体液移動は、単に水分が上へ浮かぶという意味ではなく、血管内の圧力、静脈の断面積、心臓へ戻る血液量、腎臓による水分排出、ホルモンによる体液調節が連動して再構成される全身反応です。

NASAの静脈血栓塞栓症に関する資料でも、持続的な頭側への体液移動に伴って顔の膨らみ、脚の容積減少、心拍出に関係する変化、血漿量の減少が生じると説明されています。

血漿量の減少が濃縮を招く

上半身へ体液が移動すると、体は循環する水分が多すぎると判断し、尿量の増加や体液調節ホルモンの変化を通じて水分を排出するため、時間の経過とともに血漿量が減少します。

血漿は血液の液体部分であり、その量が減れば赤血球や血漿タンパク質などの相対的な割合が一時的に高くなり、地上で脱水したときに近い血液濃縮として観察される場合があります。

観察項目 主な変化 読み取り方
血漿量 減少しやすい 液体部分が少なくなる
ヘマトクリット 時期で変動 赤血球の割合を示す
赤血球量 長期的に減少し得る 濃縮とは別に評価する
血液粘度 複数要因で変化 単一数値では決まらない

ただし、血漿量が減ったという事実だけで血栓が発生すると決まるわけではなく、静脈の流速、赤血球の性状、血小板、凝固因子、血管壁、運動量などを含めた総合的な評価が必要です。

また、宇宙滞在中の数値を地上の基準範囲へ機械的に当てはめると誤解が生じるため、飛行前、飛行中、帰還直後、帰還後の回復期を連続して比較することが重要になります。

血流停滞が血栓に関わる

宇宙空間の血栓リスクを考えるうえで、血液の粘り以上に直接的な注目を集めているのが、静脈を流れる血液の速度低下や停滞です。

静脈の血液は動脈ほど高い圧力で流れておらず、地上では姿勢の変化、呼吸、筋肉の収縮、静脈弁などが心臓へ戻す働きを支えていますが、微小重力ではこれらの条件が変わります。

流れが遅くなった場所では凝固反応を抑える物質や活性化した凝固因子が十分に運び去られにくくなり、血管壁との接触時間も長くなるため、他の危険因子が重なった場合に血栓形成へ傾く可能性があります。

ただし、血流の停滞が見つかった人すべてに血栓ができるわけではなく、停滞は危険因子の一つであって、血栓そのものを意味しない点を区別しなければなりません。

血栓は三つの要因で考える

静脈血栓は一般に、血流の停滞、血管内皮の損傷や機能変化、血液が凝固しやすい状態という三つの要因から整理され、これはウィルヒョウの三徴と呼ばれます。

宇宙飛行では、頭側への体液移動による静脈血流の変化が最も分かりやすい要素ですが、放射線、酸化ストレス、炎症、睡眠や概日リズムの乱れ、運動条件、個人の体質などが残りの要素へ関係する可能性も研究されています。

  • 静脈内の血流が遅くなる
  • 血管内皮の働きが変化する
  • 凝固と線溶の均衡が変わる
  • 脱水や活動量低下が重なる
  • 個人の既往歴や体質が影響する

この枠組みを使うと、血液の濃度が少し高くなったから直ちに血栓ができるという単純な因果関係ではなく、複数の条件が重なったときに危険が高まると理解できます。

宇宙飛行士は厳しい健康選抜を通過した集団であるため、地上の一般集団で用いられる血栓リスク評価をそのまま適用できず、宇宙環境に特化した評価方法の整備が進められています。

内頸静脈で異常が確認された

宇宙飛行中の血栓問題が大きく注目されたきっかけの一つは、国際宇宙ステーションに長期滞在した健康な宇宙飛行士の内頸静脈を超音波で調べた研究です。

JAMA Network Openに掲載された2019年の研究では、11人のうち6人で飛行開始からおよそ50日後に内頸静脈の停滞流または逆行流が観察され、少なくとも1人で閉塞性の血栓が確認されました。

この結果は宇宙滞在者の55%が血栓症になるという意味ではなく、対象者数が少ない観察研究であり、55%という数字は血栓の発生率ではなく、特定の時点で停滞流または逆行流が確認された割合です。

NASAが公表した後続の資料でも、左内頸静脈を中心に流れの低下、停滞、逆流、血管の拡張が報告されていますが、個人差や左右差があり、異常な血流から血栓へ進む条件はまだ完全には判明していません。

宇宙貧血とは矛盾しない

宇宙では血液が濃くなる可能性がある一方で宇宙貧血も起こると聞くと矛盾しているように見えますが、血漿量の減少と赤血球量の減少は異なる時間軸で並行して起こり得ます。

宇宙飛行の初期には液体成分である血漿が減るため、採血上は赤血球濃度が保たれたり高く見えたりしても、実際の赤血球の総量は減少している可能性があります。

Nature Medicineに掲載された長期宇宙飛行の研究では、14人の宇宙飛行士を調べた結果、宇宙滞在中に赤血球の破壊である溶血が飛行前より増加し、その変化が約6か月のミッション中に持続したと報告されました。

つまり、血液の液体部分が減って一時的に濃縮して見えること、首の静脈で血液が滞ること、赤血球が通常より多く壊されることは同時に存在し得るため、宇宙貧血があるから血栓リスクはないとも、血栓リスクがあるから赤血球は必ず増えるともいえません。

滞在期間で影響が変わる

数分間の微小重力を経験する弾道飛行、数日程度の短期飛行、数か月に及ぶ国際宇宙ステーション滞在、将来の月面滞在や火星往復では、身体が宇宙環境へさらされる時間と条件が大きく異なります。

短時間でも頭側への体液移動は始まりますが、血漿量の調節、赤血球量の変化、筋力低下、血管機能の適応、放射線の累積影響などは時間をかけて進むため、短期飛行の結果だけで長期探査の安全性を判断することはできません。

一方で、民間宇宙旅行の参加者には年齢が高い人や生活習慣病を持つ人が含まれる可能性があり、滞在時間が短いから健康評価が不要とは限らず、打ち上げ時の加速度や着陸時の負荷も含めた別の検討が必要です。

研究対象となった宇宙飛行士は少人数で健康状態も厳格に管理されているため、得られた数値を将来の一般旅行者へそのまま当てはめず、飛行時間、機体環境、年齢、既往歴、服薬状況を分けて考えることが大切です。

血液が濃く見える仕組み

宇宙飛行中の採血結果を理解するには、血液の総量、液体成分の量、赤血球の総量、単位体積当たりの濃度を分ける必要があります。

同じヘモグロビン値やヘマトクリット値でも、血漿だけが減った場合と赤血球そのものが増えた場合では身体の状態が異なり、測定した時期によっても結果の意味が変わります。

さらに、血液の流れやすさは赤血球数だけでなく、赤血球の変形能、血漿タンパク質、温度、血管径、流速などにも左右されるため、濃度の数値と血栓リスクを直結させない姿勢が必要です。

血漿と赤血球を分けて見る

血液は血漿と血球成分から構成され、血漿量が減少すれば、赤血球の総数が変わっていなくても一定量の血液に占める赤血球の割合は高くなります。

反対に、赤血球が破壊されて総量が減っていても、血漿量も同時に減っていれば、ヘモグロビン濃度やヘマトクリットが予想ほど下がらず、表面的には貧血が見えにくいことがあります。

状態 血漿量 赤血球量 見え方
初期の体液調節 減少 比較的維持 濃縮して見える
長期適応 減少 減少し得る 数値が相殺され得る
帰還後の再水和 回復方向 回復に時間 貧血が明瞭になり得る
単純な脱水 減少 通常は維持 濃度が上がりやすい

このため宇宙医学では、一回の採血値だけでなく、血漿量の推定、赤血球量、溶血を示す指標、鉄代謝、飛行前から帰還後までの推移を組み合わせて評価します。

血液検査の数値が基準範囲内でも循環血液量や血流に問題がないとは限らず、反対に一時的な濃度上昇だけで病的な血液粘度上昇と決めつけることもできません。

赤血球は減少する場合がある

宇宙環境へ移行すると、地上で下半身へ送るために必要だった血液量が過剰と認識され、初期には赤血球量を調節する反応が起こると考えられてきました。

近年の長期飛行研究では、宇宙滞在中に赤血球の破壊が継続的に増える可能性が示され、宇宙貧血を単なる飛行初期の一時的な適応として捉えるだけでは不十分になっています。

  • 赤血球の破壊を示す物質
  • 呼気中の一酸化炭素
  • 血清鉄や鉄代謝の変化
  • 帰還後の赤血球産生反応
  • 栄養需要への影響

赤血球が減れば一般には血液粘度を下げる方向へ働く可能性がありますが、同じ人で血漿量の減少や局所的な血流停滞が起きていれば、全身の平均的な粘度だけで血栓リスクを説明できません。

溶血が起きる詳しい機序や、より長い月・火星ミッションで変化がどこまで続くかには不明点があり、研究結果をすべての宇宙旅行者へ一般化する際には慎重さが求められます。

粘度と凝固能は別の指標になる

血液粘度は血液が流れる際の抵抗に関係する性質であり、凝固能は出血を止めるために血液が固まる仕組みの働きやすさを示すため、両者は影響し合っても同じ概念ではありません。

粘度が高くなくても狭い場所で血流が長時間停滞し、血管内皮の変化や凝固因子の活性化が重なれば血栓ができる可能性があり、逆に血液が一時的に濃縮していても十分な血流と正常な凝固調節が保たれれば血栓が生じない場合があります。

宇宙飛行研究では採血できる回数や検体保存、地上への輸送、微小重力下で使用できる装置に制限があるため、血液粘度そのものを連続測定するより、超音波による流れ、血球成分、凝固関連マーカーなどから総合的に推定する場面が多くなります。

検索時に見かける血液がドロドロになるという説明は理解しやすい反面、濃縮、粘度、凝固、血流停滞を一つにまとめている場合があるため、根拠として何を測定した研究なのかまで確認することが重要です。

血栓リスクを高める宇宙特有の条件

宇宙で血栓が形成される可能性は、微小重力だけで決まるのではなく、血流、血管壁、凝固系、生活環境、個人要因の組み合わせによって変化します。

地上の長時間座位と似た要素もありますが、体液が下半身ではなく上半身へ偏ることや、内頸静脈に特徴的な変化が見られることは宇宙飛行ならではの条件です。

危険因子の存在と実際の発症率は分けて考え、少人数の研究から得られた所見を過度に恐れず、長期探査に備えて監視と対策を進める課題として理解する必要があります。

微小重力が静脈の流れを変える

地上では歩行や立位によって下半身の静脈に血液がたまりやすい一方、ふくらはぎなどの筋肉が収縮して血液を押し戻す筋ポンプが働きます。

微小重力では体重を支える必要がなく、脚の筋ポンプが地上と同じ形では使われないうえ、頭から足に向かう静水圧勾配も失われるため、首や胸部の静脈に地上とは異なる血流パターンが生じます。

  • 頭側への持続的な体液移動
  • 内頸静脈の断面積拡大
  • 静脈内圧の変化
  • 流速の低下
  • 停滞流や逆行流

これらの変化はすべての宇宙飛行士に同じ程度で起こるわけではなく、左側と右側の内頸静脈でも結果が異なることがあるため、左右を分けた超音波評価が必要になります。

さらに、微小重力で拡張した静脈は画像上で血栓に似た所見を示す場合があり、単に流れが遅い状態と実際の血栓を見分ける技術も重要な課題です。

地上とは異なる危険因子が重なる

宇宙飛行士にも遺伝的な凝固傾向、過去の血栓症、加齢、ホルモン剤、感染、脱水、けがなど地上と共通する危険因子があり、それらへ宇宙特有の環境要因が加わります。

宇宙船内では運動機器を使って日常的にトレーニングしているものの、移動のために歩く必要がなく、作業姿勢も地上とは異なるため、運動時間だけでは把握できない活動パターンの違いがあります。

要因 地上 宇宙
体液の偏り 下半身へ偏りやすい 頭側へ偏りやすい
筋ポンプ 歩行で頻繁に作動 意識的な運動が必要
静脈異常 脚で多い 首の静脈が注目される
救急搬送 医療機関へ移動可能 迅速な搬送が困難
診断環境 多様な画像検査 主に限られた機器

同じ静脈血栓でも、宇宙では検査機器、薬の在庫、通信遅延、帰還までの時間、着陸時の外傷リスクを考慮しなければならず、発症確率だけでなく発症後の対応困難性も重要です。

そのため、将来の深宇宙探査では事前選抜だけに依存せず、飛行中の定期検査、危険度の再評価、治療薬の保管、医療訓練、自律診断技術を一体として準備する必要があります。

放射線やストレスは研究途上にある

宇宙放射線は細胞や血管内皮へ影響を与える可能性があり、炎症や酸化ストレスを通じて心血管系や凝固系へ作用する仕組みが動物実験や細胞研究で検討されています。

また、閉鎖環境での生活、睡眠時間帯の変化、騒音、任務上の緊張、隔離、食事条件の変化は、自律神経、ホルモン、免疫、炎症反応へ影響し、間接的に血管機能を変える可能性があります。

ただし、人の宇宙飛行において特定量の放射線や心理的ストレスが内頸静脈血栓をどの程度増やすかを示す十分なデータはなく、可能性があるという説明と因果関係が確立しているという説明を混同してはいけません。

月や火星へのミッションでは低地球軌道より放射線環境が厳しく、地球からすぐ帰還できないため、長期間の被ばくと微小重力または部分重力が血管へ与える複合影響の解明が求められています。

宇宙飛行士が受ける検査と対策

宇宙空間の血栓対策では、血液を必要以上に固まりにくくすることより、危険な血流変化や血栓を早く見つけ、個人の危険度に応じて対応することが優先されます。

国際宇宙ステーションには超音波装置があり、地上の専門家が通信を通じて宇宙飛行士の操作を支援しながら、首の静脈の太さ、血流方向、流速、血栓らしい像を確認できます。

運動、水分管理、下半身陰圧、太ももカフ、薬物治療などが検討されていますが、どの方法も全員へ同じように適用できる万能策ではありません。

超音波で静脈を観察する

超音波検査は放射線被ばくがなく、比較的小型の装置で血管の形と血流を確認できるため、宇宙船内で使用しやすい重要な診断手段です。

ドプラ法を使うと血液がプローブへ近づく方向と遠ざかる方向を区別でき、正常な順行流、速度の低下、停滞、逆行流などを波形や色で評価できます。

確認項目 分かること 主な課題
血管断面積 静脈の拡張 姿勢で変化する
血流速度 流れの低下 測定角度に左右される
血流方向 順行や逆行 呼吸でも変動する
血管圧迫性 血栓の可能性 首では操作が難しい
内部エコー 血栓らしい像 停滞との区別が必要

宇宙飛行中の静脈超音波に関する2024年の系統的レビューでは、微小重力による静脈うっ滞が血栓に似て見える可能性や、地上の診断基準を宇宙へそのまま移すことの難しさが指摘されています。

将来は遠隔操作できるプローブ、人工知能による画像補助、拡張現実を利用した操作案内などにより、地球との通信遅延が大きい場所でも乗員が自律的に検査できる仕組みが期待されています。

運動と水分管理を続ける

運動は筋肉と骨の低下を抑えるだけでなく、筋収縮によって静脈の血液を移動させ、心血管系へ適切な刺激を与える役割があります。

国際宇宙ステーションでは有酸素運動や抵抗運動が行われていますが、地上で一日を通じて歩いたり階段を上ったりする活動とは異なるため、決められた運動時間以外の血流も考える必要があります。

  • 定められた運動計画を守る
  • 長時間同じ姿勢を避ける
  • 水分摂取量を管理する
  • 体重や尿量の変化を追う
  • 体調変化を早めに報告する

適切な水分補給は過度な血液濃縮を避けるうえで重要ですが、微小重力による頭側への体液移動を水だけで解消できるわけではなく、飲みすぎれば体液管理や電解質管理へ別の問題を生じさせます。

運動や水分は基礎的な対策であっても、すでに形成された血栓を治療する方法ではないため、疑わしい所見がある場合は超音波検査と医療判断を優先しなければなりません。

下半身へ体液を戻す装置を使う

下半身陰圧は、腰から下を密閉した装置に入れて内部の圧力を下げ、下半身へ血液や体液を引き寄せることで、地上で立ったときに近い循環負荷をつくる方法です。

2019年の内頸静脈研究では、下半身陰圧を使用した17回の測定のうち10回で上半身の静脈血流が改善し、血流停滞への対策候補として期待される一方、すべての測定で効果が得られたわけではありません。

太ももの上部を適度に締めるカフも、脚の静脈や組織に一部の体液をとどめ、頭側のうっ血を減らす目的で研究されていますが、締め付けの強さ、使用時間、装着感、皮膚や神経への影響を管理する必要があります。

すでに血栓が見つかった場合には抗凝固薬が用いられることがありますが、薬剤の選択や投与期間は血栓の位置、出血リスク、在庫、着陸時期などを踏まえて決める医療行為であり、予防目的の自己判断による使用はできません。

地上の生活に置き換えて考えるポイント

宇宙の血流研究は、長時間座ったままの移動、寝たきり、脱水、筋活動の低下など、地上の血栓予防を考えるうえでも参考になります。

ただし、微小重力では体液が頭側へ偏るのに対し、地上の座位や立位では脚へ偏るため、宇宙飛行士の内頸静脈で起きた変化を一般の人の脚の血栓へそのまま置き換えることはできません。

一般生活で重要なのは血液をサラサラにする食品を探すことではなく、長時間動かない状況を減らし、適切な水分を取り、症状があれば速やかに医療機関へ相談することです。

長時間動かない状態を避ける

地上で静脈血栓の危険が高まりやすい代表的な状況には、長距離移動、入院や手術後の安静、けがによる固定、長時間のデスクワークなどがあります。

こうした状況では主に脚の静脈で血液が滞りやすく、足首やふくらはぎを動かす機会が減るため、可能な範囲で定期的に姿勢を変え、筋ポンプを働かせることが役立ちます。

  • 定期的に立って歩く
  • 足首を曲げ伸ばしする
  • 締め付けの強い姿勢を避ける
  • 適量の水分を取る
  • 医師の指示がある弾性着衣を使う

ただし、手術直後、重い心臓病、腎臓病、むくみ、動脈疾患などがある人では運動量や水分量に個別の制限が設けられることがあるため、一般的な予防策より主治医の指示を優先します。

血栓予防を目的に市販薬やサプリメントを自己判断で使うと出血や薬の相互作用を起こす可能性があり、歩行や水分補給の代わりにもならない点に注意が必要です。

脱水だけを原因にしない

脱水になると血漿量が減り、血液が濃縮して見えるため、血栓との関連が語られることがありますが、脱水だけで静脈血栓の発生を説明できるわけではありません。

実際の危険度は、不動、手術、がん、妊娠、ホルモン剤、過去の血栓、遺伝的体質、肥満、加齢、感染など多くの条件によって変わります。

状態 主な変化 優先する対応
軽い水分不足 口渇や尿量低下 適切な水分補給
長時間の座位 脚の静脈停滞 定期的な運動
片脚の急な腫れ 血栓の可能性 医療機関へ相談
胸痛や息切れ 肺塞栓の可能性 緊急の医療要請
持病による水分制限 過剰摂取も危険 医師の指示を優先

水分を大量に飲めば血液が薄まり血栓を確実に防げるという考えも正しくなく、短時間での過剰摂取は低ナトリウム血症などを招く可能性があります。

宇宙飛行士の体液管理も同様に、単純な水分補給ではなく、尿量、電解質、循環血液量、運動、食事、任務条件をまとめて調整する必要があります。

危険な症状は自己判断しない

地上で注意したい静脈血栓の症状には、片脚だけの急な腫れ、痛み、熱感、皮膚色の変化などがありますが、症状が乏しいまま血栓が存在する場合もあります。

血栓が肺へ移動して肺塞栓症を起こすと、突然の息切れ、胸の痛み、動悸、冷や汗、失神、血痰などが現れることがあり、このような症状は緊急性が高いため直ちに救急医療を求める必要があります。

一方で、むくみや肩こり、頭痛だけから血液がドロドロしていると判断することはできず、必要に応じて診察、血液検査、超音波、造影検査などで原因を確認します。

宇宙空間の研究結果は血流の仕組みを理解する材料にはなりますが、個人の症状を診断する道具ではないため、自分に血栓があるか不安な場合は宇宙医学の情報ではなく医療機関での個別評価を受けることが大切です。

宇宙の血液変化は流れと成分を分けて捉える

まとめ
まとめ

宇宙空間では血漿量が減って血液が一時的に濃縮して見える可能性があるものの、赤血球の総量や溶血、血液粘度、凝固能、静脈血流はそれぞれ異なる変化を示すため、血液が一律にドロドロになるという説明だけでは実態を表せません。

血栓との関係で特に重要なのは、微小重力によって体液が頭側へ移動し、内頸静脈が拡張して血流が遅くなったり逆向きになったりする現象であり、少人数の研究ながら実際の血栓も確認されたことから継続的な監視対象になっています。

その一方で、停滞流が見つかった人すべてに血栓ができるわけではなく、現在のデータだけで宇宙飛行中の正確な発症率や個人別の危険度を断定することはできないため、血流停滞、血管内皮、凝固傾向、既往歴などを組み合わせた評価が必要です。

今後の月面滞在や火星探査では、超音波による早期発見、運動や水分管理、下半身陰圧などの対策、遠隔医療や自律診断、必要時の抗凝固治療を統合し、限られた人数から得られるデータを慎重に積み重ねていくことが安全な有人宇宙飛行につながります。

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