火星には水があり過去の海も存在した可能性が高い|地形・鉱物・探査データから見える赤い惑星の歴史!

火星には水があり過去の海も存在した可能性が高い|地形・鉱物・探査データから見える赤い惑星の歴史!
火星には水があり過去の海も存在した可能性が高い|地形・鉱物・探査データから見える赤い惑星の歴史!
太陽系と宇宙のひみつ

現在の火星は、赤い砂と岩石に覆われた寒冷で乾燥した惑星に見えますが、探査機が撮影した地形や地表で分析された鉱物、火星大気に含まれる水素の同位体、地下を調べるレーダーや地震計のデータを総合すると、かつて大量の液体の水が存在していたことはほぼ確実と考えられています。

なかでも注目されているのが、北半球の広大な低地を満たす海が存在したという仮説であり、古い海岸線に似た地形、河川から運ばれた土砂がつくる三角州、地下に保存された砂浜状の堆積層など、海の存在を支持する証拠が複数の地域から報告されています。

ただし、過去の火星に川や湖があったことと、地球のような広大で長寿命の海があったことは同じ確実性で語れず、海の広さ、水深、存続期間、当時の気温については研究者の間でも見解が分かれているため、確定した事実と有力な仮説を区別することが大切です。

ここでは、火星に現在も水があるのか、過去の海を示す証拠には何があるのか、水が消えた理由はどこまで判明しているのかを、NASAやESAの探査結果、査読付き研究で示された内容、異なる解釈が残る論点まで含めて整理します。

火星には水があり過去の海も存在した可能性が高い

最初に結論を示すと、現在の火星にも水は存在しますが、人が湖や川として目にできる状態ではなく、その大部分は極冠や地下にある氷、鉱物に取り込まれた水、深い地殻内に存在する可能性がある水として残されています。

過去については、川、湖、地下水、氷河などが活動した証拠が世界各地で見つかっており、北部低地には海が広がっていた可能性も高まっていますが、海の輪郭や水量を完全に復元できる段階には達していません。

そのため、火星の水を理解するときは、確認度の高い氷や水成鉱物の証拠、地形から強く推測できる河川や湖、複数の解釈が残る海岸線や現在の液体水を分けて考える必要があります。

現在も水は存在する

火星に水があるかという問いへの答えは明確に「ある」ですが、現在の地表は平均的に低温で大気圧も非常に低いため、地球の海や川のような液体の水が長期間安定して存在する環境ではなく、確認されている水の中心は氷と水蒸気です。

極域には水の氷を含む巨大な氷冠があり、中緯度から高緯度の地下にも浅い場所から氷が検出されているほか、大気中には少量の水蒸気が存在し、季節に応じて地表、極冠、大気の間を移動しています。

水の状態 主な存在場所 確認度
水の氷 極冠・地下 高い
水蒸気 大気 高い
鉱物中の水 地殻・堆積岩 高い
深部の液体水 地殻内部 研究中
地表の塩水 斜面・浅い地下 議論あり

NASAの火星基礎情報でも、火星の過去に河川、湖、三角州を形成した水があったことと、現在は主に氷として水が残っていることが紹介されています。

したがって、火星に水がないのではなく、現在の環境では表面を自由に流れる水よりも、凍結、地下への移動、鉱物への固定という形で保存されていると理解するのが適切です。

川の跡が広範囲に残る

過去の液体水を示す最も分かりやすい証拠の一つが、南部高地を中心に広がる枝分かれした谷のネットワークであり、細い谷が集まって太い流路へつながる形は、雨や雪解け水が地表を流れて侵食した地球の河川流域とよく似ています。

火星には谷のネットワークだけでなく、幅が広く深く削られた巨大な流出河道も存在し、地下に蓄えられていた水が一気に放出され、大規模な洪水となって北部低地へ流れ込んだ可能性が指摘されています。

谷の方向や傾斜を調べると、高地から低地へ向かう自然な水の流れが読み取れるため、単なる風食や溶岩流だけで世界規模の水系を説明することは難しく、液体水が地形形成に重要な役割を果たしたことは高い確度で支持されています。

ただし、すべての谷が温暖な気候の雨によってつくられたとは限らず、氷床の下から流れ出した水、火山活動や隕石衝突で一時的に融けた氷、地下水の噴出など、地域ごとに異なる水源が関係した可能性があります。

河川地形は火星が一時的に水を持った証拠にはなりますが、年間を通して温暖で湿潤だったのか、寒冷な時代に短い融解イベントが繰り返されたのかまでは、地形だけから一つに決められません。

湖の跡が着陸地点で確認された

NASAの探査車パーサヴィアランスが活動するジェゼロ・クレーターには、外部から流れ込んだ河川と扇状に広がる三角州が残っており、クレーター内部に長期間または繰り返し湖が形成されたことを示す重要な場所として調査されています。

三角州は、川の流れが湖に入って弱まったときに砂や泥が堆積してつくられるため、流路、堆積層、湖岸に対応する地形が組み合わさっているジェゼロは、過去の水環境を復元するうえで非常に有力な証拠を提供します。

キュリオシティが探査するゲール・クレーターでも、細かな泥が水底に積もって固まった泥岩や、河川によって運ばれた丸い小石、湖の水位変化を反映すると考えられる堆積構造が見つかっています。

これらの湖は北半球全体を覆う海とは規模が異なりますが、火星表面に液体水がとどまり、土砂を運び、堆積物を層状に残すだけの時間があったことを現地観測によって裏付けています。

湖底の泥や三角州の細粒堆積物は、有機物や微生物由来の痕跡が存在した場合に保存されやすいため、過去の生命を探すうえでも優先度の高い調査対象になっています。

水中でできる鉱物が見つかる

火星の岩石や土壌からは、粘土鉱物、硫酸塩、炭酸塩、水和シリカなど、水と岩石が反応したり、水が蒸発したりする過程で形成される鉱物が多数検出されており、地形とは別の化学的な証拠として過去の水を支えています。

粘土鉱物は比較的穏やかな水環境で形成されることがあり、古い地層で広く見つかっていることから、火星史の初期には岩石と水が長く接触できる場所が存在したと考えられています。

一方で硫酸塩が多い地層は、酸性度や塩分が高い水が蒸発した環境を示す場合があり、火星が湿潤な状態から乾燥した状態へ移行する過程を記録している可能性があります。

鉱物の種類が時代や地域によって変化していることは、火星の水環境が一定ではなく、比較的中性の水、酸性の湖、塩分を含む浅い水、地下熱水など、多様な条件が存在したことを意味します。

ただし、水成鉱物が見つかったからといって、その場所に深い海があったと直ちに判断できるわけではなく、湖、地下水、融雪水、熱水活動でも形成できるため、周辺地形や堆積構造との組み合わせが重要です。

北部低地が海盆の候補になる

火星の北半球には南部高地より数キロメートル低く、非常に平坦な地域が広がっており、この地形的な低さと広さから、古代の水が集まる海盆として機能したのではないかと長く考えられてきました。

南部高地に刻まれた河川や巨大洪水の流路の多くは北へ向かっており、流れ込んだ水が北部低地に蓄積したと考えると、惑星規模の地形と水系のつながりを比較的自然に説明できます。

海が存在した場合、その候補地として特に注目されるのがボレアリス盆地やユートピア平原であり、提案される海の範囲によっては火星表面の約5分の1から3分の1程度を水が覆った可能性があります。

NASAが水素の同位体比から推定した研究では、初期の火星に地球の北極海を上回る量の水があり、北部低地に集まった場合には惑星表面の約19%を覆う海になり得たと報告されていますが、この数値は仮定する海盆の形や水量によって変わります。

NASAが公表した古代火星の水量推定は海の存在を直接撮影した証拠ではなく、現在の大気に残る水素と重水素から失われた水量を逆算した結果である点を理解しておく必要があります。

海岸線候補は変形している

火星の北部低地の周囲では、長距離にわたって連続する段差や地形境界が見つかり、かつての海岸線ではないかと提案されてきましたが、地球の海岸線のように一定の標高を保っていないことが海洋仮説への大きな反論になっていました。

水面は重力に従ってほぼ同じ高さになるため、同じ海につながる海岸線の標高が場所によって大きく異なるなら、最初から海岸線ではなかったか、形成後に地殻変動で変形した可能性を考えなければなりません。

その後の研究では、タルシス地域に巨大火山群が成長したことで火星の地殻と自転軸に関係する変形が起こり、もともと同じ水準にあった海岸線が現在のようにゆがんだ可能性が示され、標高の不一致を説明する案が提示されました。

さらに2026年にNatureで発表された研究は、個々の細い線だけでなく、河川が平坦な沿岸棚を経て海底へ移る地球の地形パターンと火星北部の地形を比較し、広い沿岸棚に相当する地形が存在する可能性を報告しています。

2026年のNature掲載研究は古代海洋を支持する新しい証拠ですが、海の年代や水深を一つに確定したものではないため、海岸線、三角州、堆積物、同位体を合わせて評価する姿勢が必要です。

地下に砂浜状の層が残る

中国の火星探査車祝融号がユートピア平原で取得した地中レーダーのデータからは、地表下に同じ方向へ緩く傾いた複数の反射層が見つかり、波や沿岸流によって砂が前方へ積み重なる海岸堆積物に似ていると報告されました。

この構造は地表の写真だけで推定された海岸線とは異なり、侵食や隕石衝突から守られた地下の堆積層を調べた結果であるため、古い海岸環境を検証する新しい種類の証拠として注目されています。

研究チームは、風で形成された砂丘、河川による堆積、溶岩流などの候補とレーダーで見える層の傾斜や厚さを比較し、長期間にわたって波と土砂供給が働いた海岸が有力であると解釈しました。

2025年にPNASで公表された研究は、南部ユートピア平原の地下に古代の前進する海岸線を示す堆積構造があると論じています。

ただし、レーダーは地下構造を間接的に映す観測手段であり、現地で岩石を掘削して粒の形、鉱物組成、堆積方向を確認したわけではないため、有力な証拠であっても最終的な確定には追加調査が必要です。

水素同位体が大量消失を示す

火星の水が過去にどれほど存在したかを考えるうえでは、通常の水素と重水素の比率が重要であり、軽い水素ほど宇宙空間へ逃げやすいため、現在の火星で重水素の割合が高いことは、大量の水が失われた歴史を示します。

現在の大気、極冠、火星隕石などに記録された同位体比を比較すると、火星は形成後ずっと同じ乾燥状態だったのではなく、初期に豊富だった水の一部を宇宙へ失い、一部を地下や鉱物に残したと考える必要があります。

  • 軽い水素は宇宙へ逃げやすい
  • 重水素は相対的に残りやすい
  • 現在の比率から過去の損失量を推定する
  • 隕石は古い水の情報を保存する
  • 推定値には水源の仮定が影響する

JAXA宇宙科学研究所による火星隕石と水素同位体の解説では、異なる年代の物質に残る同位体情報から、火星の水が変化してきた過程を読み取る研究が紹介されています。

同位体比は海そのものの位置や形を示すわけではありませんが、河川や海岸地形から推測される大量の水が、現在の火星表面から消えている理由を数量的に考えるための重要な手掛かりです。

過去の火星はどれほど水に満ちていたのか

過去の火星を青い海に覆われた地球そっくりの惑星として描く想像図は魅力的ですが、実際には火星の歴史を通じて水量と気候が大きく変化し、地域によって川、湖、氷床、地下水、海が異なる時期に存在した可能性があります。

古い時代ほど隕石衝突や火山活動による改変を受けているため、水環境の復元には年代の推定、地層の重なり、クレーター密度、鉱物の形成条件を組み合わせなければなりません。

海の規模を示す数値には幅がありますが、その違いは研究の誤りというより、対象とする時代、海岸線候補、地下へ失われた水、極域の氷をどこまで含めるかが異なることから生じます。

水が多かった時代を区別する

火星の地質史は一般にノアキス紀、ヘスペリア紀、アマゾニア紀に分けられ、最も古いノアキス紀には谷のネットワークや粘土鉱物が多く形成され、液体水の活動が現在よりはるかに活発だったと考えられています。

続くヘスペリア紀には巨大洪水の流路や硫酸塩を含む堆積物が目立つようになり、安定した湿潤環境から、火山活動、地下水の放出、蒸発、凍結が強く影響する乾燥環境へ移行した可能性があります。

地質時代 おおよその特徴 代表的な水の痕跡
ノアキス紀 約37億年以上前 谷・湖・粘土鉱物
ヘスペリア紀 約37億~30億年前 洪水路・硫酸塩・海洋候補
アマゾニア紀 約30億年前以降 氷河・地下氷・限定的活動

年代の境界は研究手法によって多少異なり、火星全体が同じ日に一斉に乾燥したわけでもないため、古い地域で湖が消えた後に別の地域で洪水が起きるような時間差も考慮する必要があります。

過去の海を語るときは、初期の比較的長く存在した海と、地下水の大放出によって一時的に形成された後期の海が別々に存在した可能性もあり、単一の海を想定しすぎないことが重要です。

海の推定規模には幅がある

古代火星の水量は、惑星全体を同じ深さで覆った場合の厚さで表す全球等価水深という尺度がよく使われ、これによって海岸線の形に左右されず、異なる研究の水量を比較しやすくなります。

初期火星の水量には数十メートルから千メートルを超える全球等価水深が提案されており、北部低地だけに集めれば、その水は全球平均よりはるかに深い海を形成できます。

  • 小規模案は浅い海や複数の湖を想定する
  • 中規模案は北部低地の一部を覆う
  • 大規模案は北半球の広範囲を覆う
  • 地下水を含めると総量は増える
  • 海の深さは海岸線の位置で変わる

NASAが2015年に示した推定では、火星は少なくとも約2000万立方キロメートルの水を持ち、その一部が北部低地に集まれば地表の約19%を覆う海になった可能性があるとされました。

一方で、水のすべてが同時期に地表へ存在したとは限らず、氷床、地下水、鉱物中の水を合計した量から海の姿を描くと過大評価になる場合があるため、水量と海面積を単純に同一視できません。

温暖な海か寒冷な海かは未解決

火星に川や海を長期間維持するには、現在より厚い大気と強い温室効果が必要ですが、若い太陽は現在より暗かったため、二酸化炭素だけで火星全体を継続的に氷点以上へ暖められたかは大きな研究課題です。

一つの考え方は、初期火星が比較的温暖で、雨や雪解け水が河川をつくり、北部低地へ流れ込む水循環を持っていたというもので、広い谷のネットワークや長期間存在した湖を説明しやすい利点があります。

別の考え方は、火星の平均気温は低く、海や湖の表面も凍結していたものの、火山活動、隕石衝突、大気組成の一時的変化、軌道条件によって融解期が発生し、その間に水が流れたという寒冷湿潤または寒冷氷結モデルです。

海の表面が氷に覆われていても、その下に液体水が残り、周辺から流入する河川や氷河の融解水によって堆積物が形成される可能性があるため、海の存在と温暖な気候は必ずしも同義ではありません。

現在の証拠は水の活動が広範囲だったことを強く示しますが、火星全体が長期間温暖だったのか、寒冷な環境で短い温暖期が何度も起きたのかを完全に決めるには、より正確な年代測定と気候モデルの検証が必要です。

火星の海はなぜ消えたのか

過去の火星に大量の水があったとしても、そのすべてが一つの原因で消えたわけではなく、大気とともに宇宙へ逃げた水、地下で凍った水、岩石と反応して鉱物に取り込まれた水、地殻深部へ浸透した水に分かれたと考えられています。

火星は地球より小さく重力が弱いうえ、地球のような全球規模の磁場を早い時期に失ったため、太陽から届く紫外線や太陽風の影響を受けやすく、大気を長期間保つうえで不利でした。

大気が薄くなると気温と気圧が下がり、液体水は凍結や蒸発を起こしやすくなるため、大気の流出と地表水の消失は互いに関係しながら火星を現在の乾燥した姿へ変えたとみられます。

大気が宇宙へ逃げた

水分子が大気上層へ運ばれて紫外線を受けると水素と酸素に分解され、軽い水素は火星の重力を振り切って宇宙へ逃げやすくなるため、長い時間をかけて水の総量が減少します。

太陽風や高エネルギー粒子は大気中の粒子を宇宙へ押し出す作用を持ち、とくに全球磁場を失った火星では、上層大気が太陽活動の影響を直接受けやすくなったと考えられています。

過程 主な作用 水への影響
光分解 水を水素と酸素へ分ける 水素流出を促す
熱的散逸 軽い粒子が重力圏を離れる 長期的に水を減らす
スパッタリング 高エネルギー粒子が大気を弾く 大気と水蒸気を失わせる
太陽嵐 大気流出を一時的に強める 初期ほど影響が大きい

NASAのMAVEN探査機は、現在も火星大気から粒子が宇宙へ流出している様子や、太陽嵐によって流出量が変化することを観測し、過去の大気喪失を推定する基礎データを提供しました。

NASAが公表したMAVENによるスパッタリング観測は、火星が大気を失う物理過程を直接理解する成果ですが、現在の流出率をそのまま数十億年間へ延長できないため、若い太陽の強さや古代磁場も考慮されます。

地殻の鉱物に固定された

過去の水のかなりの部分は宇宙へ逃げたと考えられてきましたが、水と岩石の反応によって水素や水酸基が粘土鉱物などの結晶構造へ取り込まれ、地殻内に保存された可能性も重視されています。

地球ではプレート運動によって水を含む岩石が地下へ沈み、火山活動を通して水が再び大気や海へ戻りますが、現在の火星には地球と同じ規模の水循環を支える活発なプレート運動がないため、岩石へ入った水が戻りにくいと考えられます。

  • 粘土鉱物に水酸基が入る
  • 塩や硫酸塩が水を保持する
  • 地下氷として長期保存される
  • 割れ目から深い地殻へ浸透する
  • 火山による再放出が限られる

NASAが紹介した2021年の水収支研究では、古代火星の水の30%から99%が地殻に取り込まれた可能性が示され、宇宙への流出だけでは現在の同位体比と水量を十分に説明できないと論じられました。

推定範囲が広いことからも分かるように、地殻へ固定された割合は確定していませんが、火星の海は完全に消滅したというより、化学反応を通して岩石の一部へ姿を変えた可能性があります。

冷却によって地下へ移った

火星内部が冷え、火山活動と大気供給が弱まるにつれて地表温度は低下し、海や湖の水は凍結して氷床や永久凍土となり、その一部は土砂や火山灰に覆われて地下へ保存されたと考えられています。

火星の自転軸の傾きは長期的に大きく変動するため、極域に集まっていた氷が中緯度へ移動したり、逆に中緯度の氷が極域へ戻ったりし、現在の地形には過去の氷河や氷床が残した流動痕が多数見られます。

地下へ移った氷は表面の低い気圧や紫外線から守られますが、浅い氷は徐々に昇華して水蒸気となり、大気を通して別の場所へ運ばれるため、火星の水は完全に静止しているわけではありません。

液体水が凍るだけなら水の総量は減りませんが、表面を覆う液体の海が失われて地下氷へ変わることで、見かけ上は乾燥した惑星となり、その後の大気流出や鉱物反応によって利用可能な水がさらに減少します。

火星の乾燥化は、大気喪失、惑星冷却、地下への浸透、鉱物への固定が段階的かつ同時に進んだ結果と考えると、現在も各所に大量の氷が残っている事実と、古代の海が見えなくなった事実を両立して説明できます。

現在の火星に残る水をどう考えるか

現在の火星にある水は、過去の海を復元するための記録であると同時に、生命探査や将来の有人活動に欠かせない資源でもあるため、軌道上のレーダー、分光計、中性子観測、着陸機の地震計などで分布が詳しく調べられています。

ただし、「火星で水を発見」という表現には、直接確認された氷、鉱物に含まれる水、データから推定された深部の液体水が混在しており、発見方法と確実性を確認せずに同列に扱うと誤解が生じます。

とくに現在の液体水については複数の研究が異なる解釈を示しているため、存在を完全に否定する必要はありませんが、地表に海や湖があるかのように受け取るのは正確ではありません。

地下氷は広い地域に分布する

火星の極冠には水の氷が大量に存在し、季節によって表面を覆う二酸化炭素の霜が増減する一方、その下には長期間残る水氷の層が保存されています。

中緯度でも、隕石が衝突して新しいクレーターをつくった際に明るい氷が露出した例や、崖の断面から厚い氷層が見つかった例があり、地下氷は極域だけに限定されません。

観測方法 分かること 主な対象
レーダー 地下層の反射 氷床・埋没氷
中性子観測 水素の多い地域 浅い地下氷
分光観測 水氷や水和鉱物 地表・大気
衝突跡の撮影 露出した新鮮な氷 中緯度地下
地震波解析 地下岩石の状態 深い地殻

ESAのMars Expressによる調査では、赤道付近のメデューサ・フォッサエ層に厚さ数キロメートル規模の氷に富む堆積物が存在する可能性が示され、すべて融けた場合には火星全体を約1.5メートルから2.7メートルの水で覆える量と推定されています。

ESAによるメデューサ・フォッサエ層の解析は赤道近くの水資源として重要ですが、氷は厚い乾燥物質に覆われているため、直ちに掘り出せる場所を示すものではありません。

液体水の報告には注意が必要

Mars Expressのレーダー観測では、南極冠の地下に強い反射を示す領域が見つかり、高濃度の塩を含む液体水の湖ではないかと提案されましたが、粘土鉱物や特定の氷構造でも同様の反射が起こり得るという反論があります。

地表の斜面に季節ごとに現れる暗い筋であるRSLも、かつては塩水が流れた有力な証拠とされましたが、その後の地形解析では乾いた砂や粉じんの流動で説明できる場所が多いことが分かっています。

  • レーダー反射だけで液体と断定しない
  • 塩水は純水より凍りにくい
  • 現在の地表は低温低圧である
  • 暗い斜面模様には乾燥説もある
  • 異なる観測方法での確認が必要である

2024年にはInSightの地震データを使った研究から、深さ約11.5キロメートルから20キロメートルの割れた岩石内に液体水が満たされている可能性が提案され、仮に観測地点が火星全体を代表するなら大量の水になると推定されました。

PNASに掲載された火星中部地殻の液体水研究には、水で満たされた地殻が地震波データをよく説明するという結論がある一方、同じデータは水で飽和していない地殻でも説明できるという指摘があり、深部の海が直接確認されたわけではありません。

水は生命探査と有人探査の鍵になる

過去の生命を探す場合、単に水があった場所ではなく、液体水が十分な期間存在し、生命に必要な元素とエネルギー源があり、形成された有機物や細胞の痕跡を保存できる堆積環境を選ぶことが重要です。

湖底の細かな泥、三角州、地下水が湧き出した鉱物脈、熱水活動があった海底などは、生命が存在できた可能性と痕跡の保存可能性を両方検討できるため、探査車による試料採取の候補になります。

将来の有人探査では、地下氷を融かして飲料水や酸素を得たり、水を水素と酸素に分けて燃料と酸化剤を生産したりできるため、地球から運ぶ物資を減らす現地資源利用の中心になります。

ただし、深さ十数キロメートルにある可能性が指摘された液体水は現在の掘削技術では容易に利用できず、有人基地の資源としては、比較的浅い地下氷があり、日照、気温、着陸安全性も確保できる中緯度地域が現実的です。

水を含む可能性がある場所へ地球由来の微生物を持ち込むと、火星固有の生命を探す調査を汚染するおそれがあるため、資源利用の便利さだけでなく、惑星保護と科学的価値を両立させる計画が求められます。

火星の水を知れば過去の海の姿が見えてくる

まとめ
まとめ

火星には現在も水があり、極冠や地下の氷、水和鉱物、大気中の水蒸気として直接または高い確度で確認されている一方、地表に長期間安定する川や湖は見つかっておらず、深い地殻内の液体水や南極地下の塩水については観測データを説明する有力候補の段階です。

過去の火星に液体水が存在したことは、河川の谷、巨大洪水路、湖底の泥岩、三角州、水と反応してできた鉱物などから強く支持され、少なくとも約30億年以上前には現在より活発な水循環があったと考えられます。

北部低地の広大な海については、低い地形、北へ向かう河川、海岸線候補、三角州の分布、地下の砂浜状堆積物、2026年に報告された沿岸棚候補が互いを補強していますが、海の広さ、水深、存続期間、表面が凍っていたかどうかには未解決の部分が残ります。

古代の海が見えなくなった理由は、水がすべて宇宙へ蒸発したからではなく、大気喪失による宇宙への流出、寒冷化による凍結、地下への浸透、水と岩石の反応による鉱物への固定が組み合わさった結果とみるのが現在の理解に近いといえます。

これから海岸堆積物の掘削、火星試料の詳細分析、地下レーダーと地震観測の拡充、地層の年代測定が進めば、火星の海がいつ生まれ、どれほど長く存在し、生命が活動できる環境だったのかという疑問に、より具体的な答えが得られるでしょう。

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